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「What Places Get to Define Vacancy?」CCA-WRIイベントレポート
1 JAN, 2026
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2026年1月15日、モントリオールのカナダ建築センター(CCA)にて、トークイベント「What Places Get to Define Vacancy?」が開催された。CCAと窓研究所が共同で実施する「CCA-WRI Research Fellowship Program 2026–2028: Vacancy」のローンチにあわせて行われたものである。
空き家や空き地は、都市の衰退や人口減少の表れとして語られることが多い。本イベントでは、そうした見方を出発点としながらも、「空き」を単なる欠如や空白としてではなく、都市の変化を読み解くためのひとつの視点として捉え直す試みが展開された。
登壇したのは、都市計画家のモーリス・D・コックス(ハーバード大学デザイン大学院)と、建築家の常山未央(mnm)。モデレーターはラフィコ・ルイス(CCA)が務めた。
デトロイトの空き地を再考する最初に登壇したモーリス・D・コックスは、2015年から2019年までデトロイト市の都市計画・開発部門を率いた経験をもとに、空き地が都市再生の起点となりうる可能性について語った。
デトロイトは20世紀前半、自動車産業の発展とともに急速に成長し、1950年には人口が180万人に達した。しかしその後、郊外化や産業構造の変化により人口は減少し、2020年には約64万人となった。その過程で、市内には使われなくなった建物や点在する空き地、解体されたまま再開発されない土地が残された。
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デトロイト東部のリバーフロントに点在する空き地や低利用地。Photo courtesy of SOM via the City of Detroit Planning and Development Department
コックスが重視したのは、こうして増えていった空き地を一律に都市の負担とみなすのではなく、都市の将来像を形づくる資源としてどう捉え直すかという問いだった。彼は、デトロイトを「緑の群島」として構想し、ランドスケープによって都市のかたちを考える枠組みとして、「Detroit Future City」に言及した。その考え方を踏まえながら、コックスは市内に点在する空き地を、具体的な地区再生へと結びつける方法を探っていった。
一方で、空き地のあり方は一様ではない。住宅地の中に残る小さな区画もあれば、川沿いの旧工業用地のように大規模な土地もある。だからこそ、どこに建築を置き、どこを開かれた空間として残すのか、そしてそれぞれの土地が周囲とどのような関係を結びうるのかを、場所ごとに考えることが重要になる。
コックスは、こうした考え方を、空き地や使われなくなったインフラ、旧工業用地を公共空間へと転換してきたデトロイトのより広範な取り組みの中に位置づけた。たとえば、かつての鉄道敷を歩行者と自転車のためのグリーンウェイへと転換したデクインダー・カットは、役目を終えたインフラを、共有される都市空間として再び都市につなぎ直す試みとして紹介された。
さらにコックスは、こうした考え方が住宅地で展開された例として、フィッツジェラルド地区の取り組みを紹介した。同地区では、点在していた27の空き地がエラ・フィッツジェラルド・パークとグリーンウェイへと転換され、さらに他の区画も、花の咲く草地や庭、手入れされたオープンスペースとして捉え直された。これらは、住宅、商業通り、地域施設を結びつける空間として整備された。
コックスは、こうした手法が市内全域に一律に適用されるものではないことを強調した。「一つの方法がすべてに当てはまるわけではない」と述べ、それぞれの取り組みは、場所ごとの具体的な条件に応じて形づくられる必要があると説明した。
しかし、ランドスケープを軸としたこの再生プロジェクトについて、地域住民の支持を得ることは容易ではなかった。コックスによれば、課題の一つは、空き地に花の咲く草地をつくることが、新しい建物を建てるものではなくても、経済開発の一形態として捉えられることを示すことだった。
またコックスは、使われなくなった既存建築をすぐに解体するのではなく、適切な用途が見つかるまで保全し、待つことの重要性にも触れた。その例として挙げたのが、長く空き建物となっていたミシガン・セントラル駅である。同駅はその後、フォード社の投資によってイノベーションセンターへと改修された。建物を残すことは、人々がその場所に重ねてきた記憶を受け継ぎながら、新たな役割を与えることでもある。
コックスは、デトロイトの未来は単一の戦略によってつくられるものではないと語る。空き地をオープンスペースや緑地として再構想すること、既存建築を新たな用途へ転用すること、すべての場所をかつての姿に戻そうとしないこと。こうした複数の方法の組み合わせが、新たな都市像を形づくっているという。
また、デトロイトは人口動態の面でも転換点を迎えている。約70年にわたり人口減少が続いてきた同市では、近年、人口増加が記録され、その傾向は翌年も続いたという。コックスは、人口が再び増え始めている地域が、これまで成長やコミュニティ再生の対象として計画してきた場所と重なっていることに言及した。直接の因果関係を示すものではないものの、空き地や既存資源を活かす取り組みと都市の変化が、同じ場所で見え始めているという。
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ローンチイベントで登壇するモーリス・D・コックス
Photo: Mathieu Gagnon © CCA
空き家、土壌、変わりゆく暮らし続いて登壇した常山未央は、空き家や既存建築の改修をめぐる自身の取り組みについて語った。講演は、戦後から高度経済成長を経て形成された東京の都市環境を背景に、建物や土地がどのように更新され、また取り残されてきたのかを振り返ることから始まった。
常山によれば、戦後の東京は、空襲による焼け野原という大きな「空き」から再出発した。その後の高度経済成長のなかで、建物や土地は、都市を新しく保ち続けるための産業サイクルに組み込まれ、建設と解体を繰り返してきた。しかし、30年以上にわたる低成長と人口減少のもとでは、古いものを新しいものへ取り替え続ける仕組みが、以前のようには機能しなくなっている。常山は、こうして更新のサイクルから取り残された建物や空間を抱えた都市を「賞味期限切れの都市」と呼ぶ。
東京を拠点とする建築家として、常山は空き家や解体材を、単なる廃棄物ではなく、手を加えることで別の価値を持ちうる資源として捉えてきた。市場が価値を見出さない空き家こそ、「新しい住まい方の類型を生み出す機会になる」と話す。
たとえば、一戸建て住宅をシェアハウスへ改修したプロジェクト「不動前ハウス」(2013年)では、解体の過程で見つかった鉄扉などを活用しながら、市場では価値を見出されにくくなった住宅を、新しい住まい方を試す場へと変えていった。常山はこうした実践を、「期限切れの食物を食べる都市の菌類」のようなものだと表現している。
さらに常山は、築30年ほどの住宅に暮らしながら改修を続ける「西大井のあな」(2017年〜)を紹介した。ここでは、一般的に資産価値が低いとみなされ、解体されかねない建物を、自身の住まいであると同時に、建築家としての実験の場として捉え直している。床や壁に部分的に穴を開けることで、空気や光、音が通る内部環境をつくり出した。完成された建築を目指すのではなく、住みながら少しずつ手を加え、生活の変化に応じて建築を更新していく実践である。
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「西大井のあな」2階廊下(左)と4階寝室(右)。床に空けられた「あな」を介して各階がつながっている。
Photos: © Ryogo Utatsu (left); © Jumpei Suzuki (right)
その関心は、やがて建物の内部にとどまらず、都市の土壌へと広がる。自邸では、駐車場のコンクリートを取り除き、30年以上覆われていた土に腐葉土や有機物、竹炭を混ぜ込むことで、小さな土壌環境を回復させた。常山は、「コンクリートで封じられていた地面に穴を開けて土を露出しただけで、小さな食の循環が生まれた」と語る。生ごみが土に戻り、植物が育つその場所は、美しく整えられた庭ではなくとも、生命を育み、ヒートアイランド現象の緩和や多種共生にもつながりうる。
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「西大井のあな」外観。左から、駐車場のコンクリート舗装に穴をあけて土壌を再生する様子と、その2年後、サツマイモなどの植物が生い茂る様子。
Photos © Mio Tsuneyama
さらに常山は、建築と地面の関係そのものにも問いを向ける。近代の都市では、コンクリート基礎が土を覆い、土壌の停滞を引き起こしてきた。これに対し、常山は独立基礎や取り外し可能なスクリュー杭、雨水を土へ戻す自然の溝などを通して、建物が地面とより可逆的に関わる方法を試みている。
こうした実践は、建築を完成された形として捉えるのではなく、生活や環境に応じて更新され続けるものとして考える姿勢ともつながっている。常山は、自邸には完成形がなく、家族の状況やその時々の暮らしやすさに応じて、少しずつ手を加えながら適応していくものだと述べた。建物を住みながら更新することは、エネルギーの使い方、土壌との関係、生活のあり方をあわせて考え直す試みでもある。
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ローンチイベントで登壇する常山未央。
Photo: Mathieu Gagnon © CCA
「空き」をめぐるリサーチの出発点として二つの講演は、「空き」の意味が場所によって異なるということを示した。コックスは、デトロイトの空き地や既存建築を、公園や緑道、地域再生の拠点として捉え直した。一方、常山は、東京の空き家や土壌を、生活や環境に応じて更新され続ける場として考察した。
発表後のディスカッションでは、「空き」を「固定された状態」ではなく、時間とともに変化し、都市や建物から土壌、微生物へと異なるスケールを横断するものとして捉える視点が共有された。最後にルイスは、常山の「期限切れの都市を食べる菌類」という比喩と、コックスの「待つこと」の実践を結びつけ、議論を締めくくった。
CCAウェブサイトでは、本イベントのアーカイブ映像と、ディスカッションの抜粋をもとに構成されたCCAの記事「Defining Vacancy」を公開している。
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左から常山未央、ラフィコ・ルイス、モーリス・D・コックス
モーリス・D・コックス/Maurice D. Cox
都市デザイナー、教育者、シビックリーダー。ハーバード大学デザイン大学院エマ・ブルームバーグ都市計画・デザイン教授。クーパー・ユニオンにて建築学士号を取得し、2005年ハーバード大学デザイン大学院ローブ・フェロー。ヴァージニア州シャーロッツビル市長、全米芸術基金(NEA)デザイン・ディレクター、デトロイト市都市計画・開発局長、シカゴ市都市計画・開発局長などを歴任。市民参加を重視した都市計画と、建築・デザイン・政治を結びつける実践で知られる。近刊に、自身の都市再生の実践を扱う『Maurice Cox: The Soul of the City』(2026、Park Books/University of Chicago Press、Maurice Cox、Maria Villalobos Hernandez、Michelangelo Sabatino編)がある。
常山未央/Tsuneyama Mio
1983年神奈川県生まれ。2005年東京理科大学卒業。2005~06年Bonhôte Zapata Architectes(スイス)研修。2006~08年スイス連邦政府給費生。2008年スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)修了。2008~12年HHF Architects(スイス)。2012年mnm設立。2015〜20年東京理科大学助教。2020〜21年同校特別講師。2022~23年EPFL客員教授。2023年コロンビア大学特任准教授。主な作品に「西大井のあな」、「不動前ハウス」(東京都)、「杭とトンガリ」(東京都)、「氷見移住ヴィレッジ」(富山県)、「秋谷の木組(秋谷スマートハウスE 棟)」(神奈川県)など。主な受賞に、2015年東京建築士会住宅建築賞、2016年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示 特別表彰など。著書に『アーバン・ワイルド・エコロジー』(2024、TOTO出版、能作文徳との共著)。
ラフィコ・ルイス/Rafico Ruiz
カナダ建築センター(CCA)アソシエイト・ディレクター兼研究部門長。マギル大学にて建築史・建築理論およびコミュニケーション研究の博士号を取得。北極圏を中心とする地域における建築、インフラストラクチャー、環境の関係を研究する。アルバータ大学社会学部にて、カナダ社会科学・人文科学研究会議(SSHRC)バンティング・ポスドク研究員を務めた。著書に『Slow Disturbance: Infrastructural Mediation on the Settler Colonial Resource Frontier』、メロディ・ジュエとの共編著に『Saturation: An Elemental Politics』があり、いずれもデューク大学出版局より刊行予定。2018年ダートマス大学フルブライト・カナダ北極研究講座研究員。論考は『Communication +1』『International Journal of Communication』『Continuum』『Resilience』などに掲載されている。
「What Places Get to Define Vacancy?」開催概要
日時:2026年1月15日(木)18:00–19:30(米国東部時間)
場所:カナダ建築センター ポール・デマレ劇場(カナダ・モントリオール)
参加費:無料
言語:英語
スピーカー:モーリス・D・コックス(ハーバード大学デザイン大学院エマ・ブルームバーグ都市計画・デザイン教授)、常山未央(Studio mnm、HOLES主宰)
モデレーター:ラフィコ・ルイス(カナダ建築センター)
主催:カナダ建築センター
www.cca.qc.ca







