WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載窓からのぞくアジアの旅

第8回 トルファン「海より低い砂漠」(前編)

田熊隆樹

08 Mar 2017

海より低い砂漠とは、どんなところだろう。

  • トルファンを小高いぶどう干し小屋の丘から見る。砂漠気候とは思えない緑。

トルファンは中国の西方・新疆ウイグル自治区にあり、古くからシルクロードのオアシスとして人々が暮らしてきた町である。

主にウイグル人が住むこの地は、タクラマカン砂漠近くの「トルファン盆地」に位置する。ほとんどの場所が海抜0m以下であるため、北方の天山山脈からの雪解け水を地下水路(カレーズ)によって引いてくることで、生きるための資源を得てきた。

水の引かれた場所は緑が茂っているが、年間降水量は20mmにも満たない。東京の1/100程度である。砂漠気候のため、夏の気温は40℃以上なのに冬はマイナスになるという、いかにも生きていくのが大変な土地である。ヤオトンの黄土はこの辺りから風に乗って旅をしてきた砂が積もったものである。

真夏のトルファンを訪れた。焼けるような太陽光の中を歩いて、濃い影を見つけては涼む。乾燥しているこの地では、影の中が涼しくて気持ちよい。

ウイグル人の集落はカレーズに沿って形成されている。集落内ではカレーズが地上に出て道の両端を通り、その脇にはポプラが植えられ影をつくる。また、強風が吹くこの地では、ポプラは防風・防砂林としての役割もあるのだろう。

  • 集落内のメインロード。子どもの手を引いて歩くウイグルの女性。

かつては新疆全体で1784本ものカレーズがつくられたが、現在は水道に変わったものが多い。トルファンには404本が残っているというが、一つまた一つと捨てられていっている。近代技術は良くも悪くも、色々な方向から集落を変えてゆくのだ。しかし残っているカレーズ沿いを覗くと、おそらく古代から変わらない、子どもを水浴びさせる母の姿が見える。

  • カレーズを子どもの水浴びに使うウイグル人の母。

カレーズは、山麓から一定間隔に縦穴を掘り、地下で水路をつなげてつくる。空からはまるでモグラの穴のように見えるらしい。地下を通すのは、途中で蒸発させないためだ。集落の少し手前で水路は地上に顔を出し、人家や畑へと流れていく。

厳しい環境ではあるが、彼らはその地の利を生かして果物などを栽培している。人々にとっては厳しい環境である砂漠気候の日照時間や降水量の少なさ、昼夜の寒暖差は、一方では果物を甘くしてくれるのである。道端ではたくさんの果物がゴロゴロと並べられ、ウイグル人の奥さんは信じられない量を購入していく。細長いメロンである「ハミウリ」は一玉60円であった。僕も毎日食べながら、2千年前の商人たちに思いを馳せた。

  • 道端のハミウリ売り。シャリシャリとして甘いメロンである。

夏場のこの地で生きていくためには、まずは影をつくることだ。そして同時に、風を通さないと暑くてたまらない。

ウイグルの家を見てみようと、濡れたタオルを頭にのせて自転車を走らせる。奇妙な小屋群を見つけた。彼らの一番の特産品である干しぶどうをつくるための乾燥小屋であった。それらは集落の上のはげた丘に群をなして立ち、遠くからは近代的なマンション群のように見えた。

まずは一人丘に登って、この奇妙な小屋を観察してみることにした。(中編に続く)

  • ぶどう園越しに見る、ぶどう干し小屋群。

 

 

田熊隆樹/Ryuki Taguma
1992年東京生まれ。2014年早稲田大学創造理工学部建築学科卒業。卒業論文にて優秀論文賞、卒業設計にて金賞受賞。2014年4月より早稲田大学大学院・建築史中谷礼仁研究室修士課程在籍。2014年6月、卒業設計で取り組んだ伊豆大島の土砂災害復興計画を島民に提案。2015年度休学し、東は中国、西はイスラエルまで、アジア・中東11カ国の集落・民家をめぐって旅する (台湾では宜蘭の田中央工作群にてインターン)。

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