CCA-WRI Research Fellowship Program 2022-2024 Above/Below/Between: Light on a Damaged Planet
Working Skill Sets
労働のスキルセット
31 Mar 2025
本プロジェクトは、ゴードン・マッタ=クラークによるサイトスペシフィックなインスタレーションに見られる即興性と、その政治的・社会的含意について考察するものである。マッタ=クラークの実践は建築そのものを主題とするのではなく、建物の構造体に対する切断や分割といった行為のなかで生じる即興に関わっている。マッタ=クラークが空間を分断し、再構成することで生み出した形態や作品は、完成された対象というよりも、概念と完成のあいだにある過程、すなわちその芸術的労働に関わるものであった。
カナダ建築センター(CCA)で閲覧した映像作品《Day’s End》《Conical Intersect》《Office Baroque》は、解体が予定されていた建築において、彼の切断がどのように新たな境界や風景を生み出していたかを示している。これらの切断は、建築の内部に光が出入りするための開口を生み出し、分断によって形成されたフレームは、光を受け止める装置として機能する。より重要なのは、マッタ=クラークの作品において、光がそうしたフレームを越えていく点にある。
マッタ=クラークの芸術的労働を即興という観点から捉えると、より大きな政治的問いが立ち現れる。たとえば、建物への物理的な切断や都市の土地取得といった行為は、資本主義が特定の労働(作家自身の労働を含む)をいかに無価値化しうるのかという問題を浮かび上がらせる。《Fake Estates》は、不動産法や都市インフラ、資本主義に対する批判を具体的なかたちで示す作品である。彼が取得した土地そのものは、都市インフラや都市政策、さらには資本によって規定される「フレーム」として機能していたといえる。一方で、《Anarchitecture》のような実践を通じて生み出された社会的空間は、そのフレームの外部へと滲み出る残余として現れる。
本プロジェクトにおけるアーカイブ調査は、二つの作品シリーズの制作にもつながっている。第一は、2023年3月から5月にかけてラインラント=ヴェストファーレン・クンストフェラインで開催された個展で発表された光の彫刻シリーズである。これらの作品では、2022年にモントリオールの複数の作業現場で取得した光のデータが用いられている。
第二のプロジェクト《The Internet of Things》は、2023年にニューヨークのThe Shedで開催されたFrieze Art Fairのために制作されたものである。CCAで閲覧したマッタ=クラークの《Money》シリーズ(アメリカ紙幣の拡大イメージ)から着想を得て完成した。本作は、32点のリネンおよびキャンバスへのデジタルプリントによって構成され、後期資本主義における商業、余暇、負債、暴力や死の可視化といった構造を通じて、アメリカの地理を再構成する。郵便制度、バーコード、封筒のセキュリティパターン、ダイレクトメール広告、郵便物の内外といったインフラ要素が、この広がりをもつ概念的風景を形づくっている。
以上の考察を通じて、本プロジェクトは、マッタ=クラークの実践を、空間と制度に対する即興的かつ批判的な介入として位置づけ、「労働」「所有」「フレーム」といった概念の再考を試みる。
『2022 CCA-WRI Research Symposium』(2022年8月24日、モントリオール)記録映像より
ジェシカ・ヴォーン/Jessica Vaughn
現代社会において見過ごされがちな構造や感情の残滓に焦点を当て、空間、労働、制度的枠組みに対する即興的かつ批判的なアプローチで作品を制作している。ミニマリズムやコンセプチュアル・アートの伝統に影響を受け、既製の素材や廃棄物を用いた彫刻的実践を展開。近年は、ゴードン・マッタ=クラークのアーカイブ研究を通じて、資本主義社会における建築や土地制度の「枠組み」への介入可能性を探っている。
カーネギー・メロン大学で美術と社会史を学び、ペンシルベニア大学で美術の修士号(MFA)を取得。ホイットニー・インディペンデント・スタディ・プログラムおよびスコヒーガン・スクール・オブ・ペインティング・アンド・スカルプチャーに参加し、2024年から2025年にかけてハーバード大学ラドクリフ研究所のデイヴィッド&ロバータ・ロジー・フェローを務める。
これまでに、ラインラント=ヴェストファーレン・クンストフェライン、ICAフィラデルフィア、ダラス・コンテンポラリーなどで個展を開催。作品はThe Shed(ニューヨーク)、CAPCボルドー現代美術館、カーネギー美術館、ICAロサンゼルス、スイス・インスティテュート、ピナコテーク・デア・モデルネ、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムなど、国内外の美術館や文化施設で展示されている。主な受賞歴として、2023年のFrieze Artadia Award、2021年のCreative Capital Grant、2019年のGraham Foundation Grantがある。







