26 Oct 2015
異文化の窓 40年間の調査と軌跡
ソロモン諸島での庶民的な旅は言うまでもなく船で、ひと、荷物、生きたままのウミガメ、波間に見えるサメやイルカ、などなど楽しい光景が連続する。地域によっては、水上住居や樹上住居なども見られ、若者宿、カヌーハウス、サイクロンシェルター、教会、学校など、さまざまな建築物に伝統建築の技が生かされている。
海峡の水上集落
海の上まで家が張り出していて、家全体が海の上に建っていることがある。裏山が迫っていて平地が殆ど無い所にどうして住むのかと疑問に思うが、狭い海峡は交通の要衝となるので、交易に良かったのだというし、漁業にも有利とのこと。新しいものは、遠くから船 (カーゴ) で運ばれてくるという“カーゴ カルチャー”では、他人よりも早く船と接触できる立地が有利であった。
ラグーンの水上住居
ラグーンを埋め立てて作った人工島では土地が狭く、海辺の住居は水上に張り出していることが多い。苦労してまでラグーンを埋め立てて住む理由は、海岸の湿気を避けるとともに、漁業に有利だからとのこと。海に突き出たトイレの下には、餌を求めて魚が集まり、食物連鎖を明快に感じることが出来る。
突き出し窓
大樹の周りに建てた3階建てのツリーハウスでは、しっかりと伸びた根が基礎となって安心感がある。原理そのものの突き出し窓が清々しい。防雨に完璧とは言えないが、壁も窓も、晴れたら簡単に乾く椰子の葉だから、一体感があって美しい。1階はピロティーになっていて、風通し抜群の玄関ホール、作業場、憩いの場、と言える。
村を鳥瞰する樹上の若者宿
メラネシアの島々では世襲の首長制ではないので、ときどき若者がツリーハウスに集まって生活を共にすることによって、リーダーを決める習慣があった。まさにコミュニティーのあり方を“鳥瞰”できる人を選んだといえる。大樹の上に小屋が載っているのが原型で、最近では、四隅に柱が建っていたり、頬杖状の斜材で支えているものもある。
大屋根の学校、教会
多くの人が出入りする建物は土間のほうが簡単なので、大屋根の下にベンチを並べる。人口照明を付けないので、壁もないことが多いが、教室などは椰子の葉葺の壁に突き出し窓をつける。強い日射が地面に反射して室内に入るで、思いのほか明るいと感じる。
カヌー小屋
南太平洋の大型木製カヌーは船首が高い独特の形をしているので、その製造や保管の小屋には独特の形をした開口がある。通常の家と同じように椰子の葉の屋根と壁で、アメリカのシングルスタイル(杉こけら葺き)を思わせる美しさがある。
サイクロンシェルター
村の一画に、低い屋根が地面まで下がった半地下の小さな家があり、サイクロンの時に老人や子供を避難させるシェルターとのこと。屋根だけだが、造りは通常の家と余り変らないし、入口から水が入りそうだが、確かに低く地面に伏せていて、風には強そう。その季節になると屋根をしっかりと造り、ほとんど閉めてしまうとのこと。
建築材料として一番重要なのはサゴ椰子で、屋根と壁には椰子の葉を折り曲げて串状にしたパネルを骨組みに結えつける。パネルの芯となる串と、葉を固定するのはサゴ椰子の幹を割ったもので、紐は椰子の殻を砕いてとれる繊維から作る。柱、梁などの骨組みは椰子の木ではないが、床材は椰子の幹を割ったものである。
─境界まどの表象 expression of spatial interface─
風土と住まいという視点で、湿潤地域の住まいと乾燥地域の住まいを比較すると日本の住まいの原型が見えてくる。湿潤地域では熱容量の小さい軽い素材で家を作り、光、風、煙、匂い、湿気、雨、そして虫、小動物、人、視線、などが融通無碍に内外の境界(まど)を通る。温暖、湿潤で、人と自然、人と人の関係が緩やかだからであろう。
次回は、パプアニューギニア、インドネシアの住まいを取り挙げ、その後、湿潤地域とは対極の乾燥地域の住居を見ながら比較検討する。
八木幸二/Koji Yagi
建築家。1944年愛知県一宮市生まれ。1969年東京工業大学建築学科卒業、同大助手。OTCA専門家派遣 (シリア田園都市省) 、クインズランド大学研究員、オクラホマ大学客員助教授、MIT 客員研究員、東京工業大学教授を経て、現在京都女子大学教授。