13 Oct 2015
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オーストラリアの北東、インドネシア、パプアニューギニアから東南に連続するソロモン諸島はエリザベス女王を元首とする英連邦の一員で、離島特有の土着性と多様性を見ることができる。1975年にクインズランド大学の研究費で調査した時の写真を見ながら、住居の原型についての考察を試みる。現在、首都ホニアラでは、コルゲート板の屋根とルーバー窓が多く使われている新しい家々が見られるが、小さな島々では、ここに示すような“風土に順応した住居”に住む人々が多い。
ソロモン諸島の伝統的住居は、水上・地上・高床・一部高床・樹上の垂直軸と、単棟・ベランダ付き・分棟・炊事棟の平面軸で概観することができる。一般的には開放的な家が多く、出入口、窓、椰子の葉すだれ、床・壁・屋根の隙間、などなど内外の境界は正に融通無碍、風が滞り無く自由に通り抜ける。
過去現在未来が混在する家
ソロモン諸島の最南端、ポリネシア系の人が住む小島ティコピア。砂浜近くに、椰子の葉葺きの低い屋根。家の前にある白砂の山はお墓で、現代文明からかなり取り残されているが、子どもたちがその周りでいきいきと遊んでいて、過去・現在・未来が混然とし、幸せ感にあふれる。
陰と涼風を求めて地面に住む
軒を地面近くまで下げているので、跪いて、かいくぐりながら入ると、思いのほか高いと感じる天井、ワンルーム空間。白い砂地に反射して入り口から内部を適度に明るくし、屋根と壁の間にも隙間があり、サゴヤシの葉で作った壁パネルを開放すると、潮風が爽やかに入ってくる。
楕円平面に出入口2箇所の家
2本の棟持ち柱が特徴的な楕円平面の家で、海側と側面に出入口がそれぞれ1箇所あるだけのシンプルな室内は、外と同じ砂地で、見上げると架構が美しい。夜は壁材と同じ椰子の葉の扉を取り付ける。温かいところの住居はこれで良いのだと感心する。
柱の間が全開放の“柱間”住居
椰子の葉葺きの屋根の下、昼間は全くの開放空間で生活し、夜には四周にヤシの葉で編んだムシロを吊るしている。収納を高床にし、地面に寝たり、ハンモックや床几を使ったりしている。内外の境界が全面的に可動ということは、柱間に戸を立てるという意味のマド(間戸)よりも開放的で、柱の間の空間“柱間”そのものと言えよう。
炊事棟は主屋から離すことが多い
炊事棟が別棟になっているのは石焼き、石蒸し料理をつくるためで、全くの別棟がほとんどだが、最近では雨対策として屋根を連蔵させている場合がある。主屋の軒を深くして、オープンな軒下炊事場もある。短時間の雨スコールが多いので石蒸し炉に屋根は必需品といえる。
土間の一部に床几のような床
外からは土間式の家に見える場合でも、土間に寝るより清潔で涼しいので、土間の一部にベッド状の床を作り、床几のような台を作っていることがある。日本の農家における土間と床の関係に似ている。普通の高床に比べ、外壁が地面まであるので夜間の寒さに対応しやすく、暑い時には壁を開放すればいいのだ。
前髪を垂らした犬のような“風の目”
地面に覆いかぶさるような切妻屋根の妻面を、椰子の葉で覆っている自然な姿は、テリア犬などがフサフサした前髪の隙間から覗いているような感じがする。雨、風、光と人間の出入りという単純な条件を満たすべく、身近な建築材料で作った自然な形と言えよう。ウインドウ(Window)は“風の目”という意味だが、この姿はまさに“風の目”のよう。
さまざまな隙間
家の周りの樹林から細い木を切り出して柱梁とし、サゴ椰子の葉や幹で壁や床を作る。厳格な作りではないので、地面と壁、壁と屋根、床・壁のあちこちにさまざまな隙間があり、採光、通風、煙出し、などの役に立っていて、セルフビルドの良さといえる。修繕も常に自分達でするのだから、少しくらい雨が入っても気にならない世界である。
開放的なムシロ掛けの高床
土間の家では壁のない家をよく見かけるが、高床の場合はベランダを付けることが多い。この家は、ベランダというよりは部屋の二面が開放されていて、必要に応じてムシロを取り付けるのである。あるいは、家全部がベランダのようだともいえる。
丸太階段の高床住居
単純な切妻屋根の一室住居の入口に、単純そのものの丸太階段。こうした高床住居と伊勢神宮を比較するのは失礼かもしれないが、棟持ち柱、妻入り、無窓空間などなど、日本の遠き祖先を連想させる。炊事は土間の別棟で行い、昼間は外の生活なので、夢窓の一室は寝室兼物置といえる。屋根を葺き替えるために、椰子の葉で作った串材が外に積み重ねてある。
融通無碍な軒下空間
かつては日本でも、縁側、軒の下、土間、が主要な生活空間であったが、南アジアや南太平洋の島嶼にその原型のような生活スタイルを見ることができる。農業、漁業、炊事、作業、昼寝、人の集まり、生活全般何でもありの融通無碍な軒下空間は、住まいの中心といえる。
家々の敷地境界
椰子の葉の壁と、隙間のある床で、あまりプライバシーの無い家々が、適度な間隔でポツポツと並び、村全体が広場のようで、各家の敷地境界という認識がない。夜間の活動が殆ど無い生活であるし、村全体が大家族のようなものなので問題はなく、東南アジアの僻地でもよく見る風景で、昔の日本の農村も想起できる。
裸地の端が集落の境界
村全体の裸地をいつもキレイにしていて、雑草もなく、小動物や虫などにとって居づらい環境を作っている。村として危険が迫ったとき周囲の土漠に逃げられない乾燥地では、中庭型住居が密集する防御態勢だが、湿潤地では対照的で、周囲のジャングルに隠れることが出来る。日常的には、海側と周囲の樹間からの涼風を享受している。
八木幸二/ Koji Yagi
建築家。1944年愛知県一宮市生まれ。1969年東京工業大学建築学科卒業、同大助手。OTCA専門家派遣 (シリア田園都市省) 、クインズランド大学研究員、オクラホマ大学客員助教授、MIT 客員研究員、東京工業大学教授を経て、現在京都女子大学教授。