WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載 デンマーク建築家連続インタビュー

「呼吸」する住宅《ブリックハウス》――
LETH & GORIインタビュー

レッテ・アンド・ゴーリ

14 Mar 2025

Keywords
Architecture
Interview

二酸化炭素の排出を減らし、手頃な価格で、最低150年の寿命を持つ家をつくる――コペンハーゲンを拠点とする建築スタジオ、レッテ・アンド・ゴーリ(LETH & GORI)による《ブリックハウス》(2014)ではその解として、デンマークを代表する伝統素材であるレンガのみを使用し建てることが選択された。真に「サステナブル」で、健やかな住環境とは。コペンハーゲンのオフィスで二人に話を訊いた。

 

──ブリックハウス(Brick House、2014)のプロジェクトはどのように始まったのですか?

 

ウッフェ・レッテ(以下:レッテ) 施主であるデンマークの建築団体(Realdania)が主催する低炭素住宅のコンペから始まりました。私たちは、最初の50年間はメンテナンスが不要で、150年以上の寿命を持つ家を建てる方法を考案するよう求められました。そこでデンマークの伝統的な住居を参照し、レンガという素材を主役にするというアプローチを取ったのです。

 

──なぜメンテナンス・フリーであることが求められたのでしょう?

 

カーステン・ゴーリ(以下:ゴーリ) 施主は住宅開発を手掛けているため、家主が何に興味があるのかに高い関心を持っていることから、ローメンテナンスの家に高い需要があると思われていたからです。修理やペンキの塗りなおしなどの作業に常に煩わされることがなければ、自分の生活に専念できるようになる、というのがその理屈です。

メンテナンス・フリーの発想はデザインを考えるうえでも大きな影響を持ちます。塗装仕上げをせず、耐久性のある素材だけを使う必要があるとなると、選択肢は限定されますからね。ある意味でこの要求は、伝統的な住宅に使われてきた素材の新たな活用方法を模索するよう私たちを導いてくれました。

また、多くの素材が複層的に用いられる現代の建築工法の複雑さから離れるため、施工プロセスの簡略化をもうひとつの課題として自らに課しました。結果、レンガとセラミックブロックという粘土製建材だけを使った、厚さ55センチもの奥行きのある外壁を作ることになったのです。

──レンガはデンマークにおいてどのような素材なのでしょうか?

 

ゴーリ レンガは、デンマークの地下に眠る土の層から作られており、この国の大地から生まれた伝統的な素材です。石や粘土、白亜で建てられた中世の教会をデンマークで見かけたかもしれませんが、ある意味、あれはデンマークの大地の断面でもあるのです。

伝統的に、粘土やレンガ造りの建物は重厚なものでしたが、押し出し成形のような新しい技術の出現により、断熱効果もある気孔を多く含むセラミックブロックなど、軽量化された粘土製建材を製造できるようになりました。ブリックハウスでは、このセラミックブロックのみで断熱性を確保しています。

 

レッテ デンマークは雨が多く気温の変化が激しいため、住宅には厳しい環境です。さらにここ100年間で、住宅の気密性を高めることに重点が置かれるようになり、外壁はますます複層化しています。現代の住宅は、ほとんどビニール袋のように隙間なく密閉されていて、大がかりな換気システムを必要とします。建物の外皮は、かつて健やかな住環境を生み出していた伝統的なレンガ造りの建物のように「呼吸」できず、湿気の出入りの自然な動きを妨げています。ブリックハウスは、この傾向に対抗するようなつくりになっています。外側には昔ながらのレンガを使用し、内側で大きなセラミックブロックに結合させることで、室内には半屋外ベランダのような表情を見せながら、気温の変化に応じて湿気を吸収、または放出できる構造を実現しました。

 

ゴーリ つまり、天然のエアコンのように機能するのです。

  • LETH & GORI

レッテ しかも、それをごく一般的な既製品を使って実現している。従来の住宅と同等の価格であることを求められたので、安価で標準的な建材を使う必要があったからです。

デザインを検討する過程では、職人と建築家の協働を謳った20世紀初頭のデンマークのとある組織を参照することにしました。「全国建築慣行改善協会(Landsforeningen Bedre Byggeski)」と呼ばれるその組織は、レンガ造りの家を建てるための設計マニュアルの作成や、建築家の育成、学校や多くの家を建てたりしました。彼らが建てた家は優れたプロポーション、空間、ディテールを備えており、色褪せない魅力があります。100年以上経った今でもその品質は不朽であり、レンガ造りの住宅建築のなかでは最上級のものと言えるでしょう。

 

──しかし、お二人はそれよりもさらに長い年月を想定した家を設計する必要があったのですよね。流行や周囲の状況が時代とともに変化していくことを見越してデザインすることに困難はありませんでしたか?

 

ゴーリ 建物の機能はしばしば変化するものですが、私たちは、人間のニーズが本質的には変化していないことを前提としながら、必要に応じて後から改変できる空間を目指しました。伝統的な住宅を彷彿とさせつつ、特定の時代を超越するようなシンプルなデザインを心がけました。中に入ると広々とした空間があり、伝統的な住宅にはない様々な設備もかなり控えめながら組み込まれています。

空間構成も、壁や開口部を将来的に改変しやすいよう、シンプルにまとめています。コンクリートではなく、レンガやセラミックブロックで造られたこの家は、構造的にも将来の住人となる人が比較的簡単にリフォームできるようにし、屋根裏空間も設けています。

むき出しのレンガや合板など、塗装仕上げをせず素材の生々しさを見せるこのプロジェクトは、私たちの美意識を変えました。長持ちしそうな頑丈な素材を使うというアプローチが、私たちのそれまでの作品とは異なる新しい美学に導いてくれたのです。

レッテ この家のインスピレーションのひとつは、日本の伝統建築でした。非常に長い寿命を確保するという課題に直面した私たちは、大屋根の存在が外壁や窓をはじめとするすべての建築要素を保護し、寿命を延ばすことを想定しました。このコンセプトは、雨から守られつつ朝のコーヒーを楽しめる、日本の縁側のような中間空間も作り出しました。開口部もすべて引き戸にしたので、室内空間がシームレスに屋外に広がるようになっています。

この家には各方向に窓がありますが、その配置は平面計画の重要な決定要素でした。東西南北に日差しが通る状況を作り出すことで、真に明るい住宅を目指しました。そのためにも窓を全方位に設けることが大事でした。光は窓辺に溜まるだけでなく、深い見込部や凹み部の壁にも反射するので、奥行きのあるファサードもこの採光計画に関与しています。むしろ、窓を設計する前にファサードの開口部をまず設計したと言うべきですね。このアプローチを取ったことで、例えば窓と出入口を1つにまとめて開口部の数を減らしつつ、居間などから外へ視線を無駄なく通すことができました。

──このような長い視野が求められるプロジェクトに取り組むにあたって、何か普段と違う点はありましたか?

 

ゴーリ 建材に150年の耐用寿命があるという確証を得るのが難しかったですね。メーカーからそうした保証を得るのは無理な話ですし、得られたとしてもおそらくあまりあてになりません。それで結局、実際に150年間建っている建物を唯一の根拠として参照するしかありませんでした。

 

レッテ デンマークでは、住宅の標準耐用年数は50年です。このプロジェクトでは、それを指定建造物の国際的な標準耐用年数である最低期間となる100年まで引き上げるため、エンジニアの協力を仰ぎました。これは基礎のつくりから必要鉄筋量まで、あらゆる面に影響しました。二酸化炭素排出量という観点から見れば、通常よりもコストがかかっている部分もあるかもしれませんが、建物の寿命は確実に2倍になります。

 

ゴーリ 願わくは3倍に。

 

レッテ 実際には、さらに長く持つかもしれませんね。建物の寿命を延ばすと同時に二酸化炭素の排出も抑えるというこの問題は、専門的かつ複雑であり、議論を呼ぶ選択を伴う可能性もあります。プラスに働く選択が、一方にとってはマイナスとなることもあり、そこには必ずトレードオフが生じます。この家では、レンガやセラミックブロック、そしてもちろんコンクリートといった、耐久性はある一方で製造時の二酸化炭素排出量が多い建材を使用することを選択したため、全体の排出量を減らすために他の部分で工夫が必要でした。

そして、このプロジェクトを通して、デンマークにおいて型破りの方法で建物を建てることがいかに難しいか、ということも分かりました。建設業者や大工職人は一般的に、慣れ親しんだ方法で仕事をすることを好みます。新しい方法の導入はリスクをもたらすことを意味し、リスクが増えればコストも増えます。私たちは革新性によるリスクと従来の方法を活用すること、このバランスの取り方を探ってきました。新しいものを取り入れることは、往々にして古いものを見直し、時の試練を経た昔の手法を現代のコンテクストに応用することでもあります。これは建築における根源的なパラドックスですね。

このプロジェクトでは、もうひとつの興味深いパラドックスに直面しました。「メンテナンス・フリー」というコンセプトです。個人的に、これはちょっとおかしな考えだと思っています。家を常日頃からメンテナンスするということは、その家がどのように建てられ、どのような仕組みになっているのかを、家主自身が正確に学ぶ機会でもあるのですから。住んでいる建物に触れ、素材を知るというちょっとしたことでも、家の寿命を延ばすことにつながると私は信じています。実はこの家を「メンテナンス・フリー・ハウス」と呼ぶのを考え直すようクライアントに説得を試みたのですが、ダメでした(笑)。

デンマークでは多くの人が築100年以上の家に住んでいますが、建物の状態はとても良いのです。屋根を修理したり、断熱性を高めるために窓ガラスを取り付けたり、ずっと細かなメンテナンスや修理を行ってきたからです。手を掛けずに済むようにすることよりも、常に人間と関わりを持ち続け、小さな改良や修繕が施されていくようにすることの方が、建物にとってははるかに重要なのです。

 

 

 

 

LETH & GORI/レッテ&ゴーリ

2007年に設立されたウッフェ・レッテ(Uffe Leth)とカーステン・ゴーリ(Karsten Gori)が率いるデンマークの建築スタジオ。場所に根ざした高水準な建築プロジェクトを専門としている。
スタジオでは、改修、転換、変容といった手法を用い、特に革新的な住宅プロジェクトに重点を置きつつ新築から文化遺産まで幅広いプロジェクトに取り組んでいる。両者は王立芸術アカデミーにて教鞭を執っている。
ronnowlethgori.dk

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