WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載国内モダニズム建築の窓ー保存と継承

ザ・プリンス 軽井沢:清家清の窓の素材性

能作文徳 (建築家)

12 Oct 2023

Keywords
Architecture
Essays
Japan

建築家 清家清によって1982年に建てられた《軽井沢プリンスホテル新館》(現 ザ・プリンス 軽井沢)。いくつかのプリンスホテルを手掛けた清家が最初に設計したのが、軽井沢新館だった。パブリック棟と客室棟から成るホテルでは、雄⼤な浅間⼭を望む各個室のピクチャーウィンドウをはじめ、多様な開口部の設えによって豊かな⾃然環境との調和がはかられている。建築家の能作文徳氏が、それぞれの窓まわりを辿ることで、そこに表れる建築家の態度を考察する。

 

5月の新緑の季節に、私たちは軽井沢プリンスホテルを訪れました。唐松の木立の中に茶色の屋根と窓の反復が見えてきます。窓について、清家清は「間戸」という言葉を使います。英語の「WINDOW」は風の目が語源で、ヨーロッパの窓は壁に穿った穴を意味します。しかし清家は日本の「窓」の語源は「間」の「戸」であるといいます。日本の木造建築では、柱と柱の間に障子や襖などの戸を入れて内外を仕切ることが窓の原型だという意味です。本論では清家の窓のデザインがどのように軽井沢プリンスホテルに表れているのか、具体的に考えてみたいと思います。

まずは全体像から見ていきましょう。

ホテルには半径300mの円弧を描く、長さ126mある3階建ての客室棟、その東側にロビーとレストランを含んだパブリック棟があり、池に張り出すように配置されています。ゴルフコースの先には浅間山が望めます。事業者の堤義明によって整備されたゴルフ場に対して清家の円弧案はゴルフコースに少し食い込んでいましたが、清家の設計案が優先されてコースが変更になったそうです。

  • 池ごしに北側から全景を見る。左手がパブリック棟

不思議なのは細長い客室棟が緩やかな円弧を描いていることです。ホテルの客室はゴルフコースと浅間山の眺望を確保するために片廊下型で1列にまとめられています。客室数は108室(36室×3階)です。客室は量産型のユニットであると説明にはありますが、図面を見ると現場打ちの鉄筋コンクリートです。おそらく反復する客室は、同一の寸法のインテリアと設備になっているという意味だと推測されます。清家は客室のユニットを長さ126mで一直線に並べることに違和感を持ったに違いありません。そこでの解決は客室をいくつかの棟に分けたり、雁行させたりするものではありませんでした。むしろ円弧状に1列に並べることで、建物の長さをゴルフコースのフィールドや池畔と対峙するような雄大なボリュームにするというアイデアでした。

ホテルの廊下は長くて真っ直ぐでつまらないものになりがちですが、円弧状のため先が見通せないように工夫されています。ホテルの廊下は暗くなりがちですが、床から天井までのガラスブロックで建物の中でも最も明るい場所になっています。ガラスブロックが用いられたのは、おそらく客が廊下を歩いている姿がダイレクトに道路側に現れない配慮でしょう。

  • ガラスブロック越しに光が差し込む客室棟の廊下
  • 廊下側の立面を室内から見る

では詳しく客室と廊下の窓について説明しましょう。

廊下に面する窓はガラスブロックとジャロジーで構成されています。外から見るとコンクリートの柱とガラスブロックが面一で収まっています。そのため柱型は廊下側に現れることになります。一般的に廊下には邪魔な柱型が出てくることを避けますが、外観の面一の収まりが優先されています。内部では円弧に沿った列柱のリズムが廊下に生み出されています。また145mm角のガラスブロックがぴったりと床から天井まで嵌っていることから、ガラスブロックの規格寸法から階高を設定していると思われます。ガラスブロックの隣に通風用のアルミサッシの既製品のジャロジー窓が2段で設置されており、窓の内側に網戸があり、ハンドルで開閉するタイプになっています。

 

  • ゆるやかに円弧を描く廊下側外観
  • コンクリートの柱にガラスブロックとジャロジーが嵌め込まれる

客室の扉は木製のガラリになっています。ホテルの客室の扉は通常、防火のためにスチールドアなのですが、そうなっていません。この木製ガラリ扉を開けると、スチールドアは廊下から2m程度後退した位置にあります。なぜそうなっているのでしょうか。軽井沢に宿泊する多くの客は自然環境を楽しむために来ているといえます。ホテルの客室はスチールドアを閉めると密閉された室内環境になってしまいます。そこで清家が考案したのは、スチールドアを開け放しにして、木製ガラリ扉を閉めておくことによって、プライバシーとセキュリティを保った上で、客室の中に外の風を取り込む仕組みです。また客室の境壁部分の引き込み戸を開ければ2室を繋げて利用することもできます。

  • 廊下境のガラリ戸と客室の境壁部分の引き込み戸
  • 引き込み戸を開けると隣り合った部屋が繋がる

さて、客室に入ると目の前に浅間山とゴルフコースと池畔の景色が広がります。これを実現しているのが客室の幅いっぱいの3150mm幅、高さ1900mmの巨大なフィックス窓です。しかも床から350mmの立ち上がりがあり、そこにコールドドラフトを防ぐヒーターが設置されていました(現在は改修されて存在せず)。この350mmの立ち上がりは椅子よりも少し低く、眺望を全く邪魔しませんが、この客室に安心感を与えています。もしフィックス窓が床まで設けられていたら、特に3階では少し怖くて不安定な印象を与えてしまうでしょう。このわずかな窓の立ち上がりが開放感と眺望、室内の安心感に繋がっています。それだけではありません。このフィックス窓の上部には、カーテンボックスと一体になっている格子状のアルミルーバー、その奥の外気に面しているところにオペレーターで開閉可能なアルミガラリがあります。眺望を邪魔せず、通風できるようになっています。そして客室扉の木製ガラリとその先の廊下のジャロジー窓との組み合わせによって風の抜け道ができています。

  • 客室のピクチャーウィンドウ。それぞれの客室から異なる浅間山の景色が望める
  • ガラリを開閉するオペレーターと格子状のルーバー

外からこの窓を見てみると、水平方向にはコールテン鋼の見付け400mmの枠、垂直方向には同じくコールテン鋼の見付け250mmの枠が格子状に構成されています。コールテン鋼とガラスとガラリだけが反復しています。つまり窓と枠だけでできたファサードです。このコールテン鋼の茶色と建物背後の樹木の緑がコントラストをなしています。屋根からの雨落ち部分の犬走には浅間山からの溶岩石が敷き並べてあります。

 

  • 北側外壁。鉄骨のフレームにガラスが嵌め込まれている

次にパブリック棟にあるロビーとレストランについて見てみます。

大きな切妻の屋根の棟木を境に半分がロビーに、残りの半分がレストランに振り分けられています。内部から見ると片流れの屋根が現れることになります。スペースフレームで軽やかに架けられたエントランスポーチから風除室に入り扉を開けると、勾配天井に屋根を二分するかのように一直線に配置された天窓の光がロビーを照らし出します。正面には最も高い棟木の位置に壁が控えており、その壁は鏡面で仕上げられているため、天井と天窓が棟の部分で折り返しているように見えます。天窓はアルミ乳白ドームの内側に白く焼き付け塗装されたスチールのルーバーが100mmのピッチで並んでおり、強い直射光ではなく、まるで照明器具かのような柔らかな反射光が届けられています。

  • トップライトが軸線上に位置するロビー

レストランでは、棟木付近にある巨大なレンガ壁を背にして、2.2寸勾配の緩やかな傾斜の先に池が望めます。屋根を支えるスペースフレームは柱2本と壁だけで支えられており、天井だけ見れば体育館や巨大な展示場のようにも見えます。しかしこの繊細な立体トラスとダウンライトの組み合わせは、編み込まれた工芸品のような趣があります。レストランの客席はレンガの腰壁で構成されたソファによっていくつかのクラスターに分かれていて、どの席からも外の景色が見えるように高低差があります。レンガの腰壁の角だけは面取りされた木レンガになっており、ぶつかっても痛くないように配慮されています。

  • 高低差がつけられたレストランの客席
  • 池を臨むレストランの客席
  • 北側からレストランを見る

最も池に近い客席は、最も低くなっており、段差を降りると池に触れられそうなほど水面を近く感じます。高さ4.8mのフィックスガラスにはサッシがなく、15mmのガラスのリブで風圧に対抗しています。そのガラスのリブは外側に張り出しています。軒が十分出ているためガラスのリブが外部に露出していても雨などで汚れにくくなっています。もしガラスのリブが内側にあったとすると、家具のレイアウトは自由にできず、池の近くにいる感覚も失われていたでしょう。このガラスの透明度と支持の仕方には清家の強いこだわりを感じます。

清家は先端的な技術と凡庸な技術を混在させたり、様々な素材をハイブリッドするのを好みます。例えばレストランのスペースフレームやリブガラスの大窓です。そして同時にアルミサッシの既製品のジャロジー窓や切妻屋根の凡庸な形態を用います。またコンクリート、鉄、コールテン鋼、アルミ、ガラスブロック、レンガ、絨毯、赤御影石、溶岩石、籐などの多くの素材が使われています。

 

  • 北側外観と犬走の溶岩石
  • レストラン外観
  • ロビーからカフェに繋がる階段
  • 南側の客室エントランス脇のジャロジー窓と新聞受け

それらは豪華さを演出したり、視覚的に喜ばせるためのものではなく、素材の重さや軽さ、硬さや柔らかさ、光の反射の有無、力学的特性などを配慮した結果、それぞれの素材が選択されています。素材の性質を捻じ曲げたり、無理やり押し込めたりせずに、素材の性質そのものが建築の組み立て方に直結しています。形態の中に素材を押し込めるのではなく、素材と形態の相互作用を重んじた清家の建築の考え方が窓まわりに表れているといえるでしょう。

能作文徳/Fuminori Nousaku

1982年、富山県生まれ。2010年、能作文徳建築設計事務所を設立。建築設計をはじめ、アート作品、インスタレーション、リノベーション、論考執筆などの活動、大学研究室と連携し、建築・都市・生態系のリサーチを行う。太陽エネルギー、土壌の再生、生分解性素材、生産から廃棄までの物質循環をテーマに建築デザインに取り組んでいる。2007年、東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了。2012年、博士(工学)。2021年より東京都立大学都市環境学部建築学科准教授。主な作品に《高岡のゲストハウス》(能作淳平との共作)、《西大井のあな》(常山未央との共作)、著書に『WindowScape 窓のふるまい学』(共著、フィルムアート社)『野生のエディフィス』(LIXIL出版)がある。

RELATED ARTICLES

NEW ARTICLES