WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載 シンポジウム『THE SAGA OF CONTINUOUS ARCHITECTURE 連続的建築は、これからも連続するか?』

ガラスについてどう考えますか?

エリック・オーウェン・モス (建築家) × 小渕祐介 (東京大学准教授)

28 Jul 2016

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Architecture
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Interviews

日本を代表するデジタルファブリケーションの研究者、東京大学准教授 小渕祐介氏が、建築とテクノロジーの最先端で活躍するゲストを迎え、連続インタビューをおこなった。今回は、米国ロサンゼルスを拠点に活動する建築家のエリック・オーウェン・モス氏が、窓とガラスの未来、そして建築教育のこれからを語った。

 

小渕祐介 (以下:小渕) ガラスについて議論することについて、どう考えますか?

エリック・オーウェン・モス (以下:モス) もっと広い議論のなかで論じることに可能性があると思います。建築のさまざまな構成要素を考えてみるということです。床、壁、屋根、階段、そして窓というように。壁とは何か? 床とは何か? 屋根とは? 階段とは? そして、窓とは何か? そんなことは当たり前だと思っている人たちが大勢いるでしょう。もし、このような質問をうまく投げかけることができれば、建築の構成要素について思索し、議論し、検討し、再定義できる可能性があるでしょう。

  • Warner Parking and Retail ©Eric Owen Moss Architects

ガラスは、とても魅力的な素材です。それは透明でありながら、ある強度をもって空間を遮断することができます。ガラスの問題が窓の問題と言えるかどうかは議論が必要かもしれませんが、いずれにしてもガラスの透明性は興味深いものです。それは屋根にもなります。「この部屋を窓で建てられるだろうか?」と尋ねてもいいでしょう。建物すべてを窓でつくることもできるかもしれない。もちろん床も。ガラスと窓は様々に解釈することができますね。まだ試みられていないことは数多くあります。たとえば、ガラスを曲げたり、フレームと切れ目なくつないで建物をつくることだって可能だと思います。

透明であるということは、ある意味で、存在していないということです。それは部屋にもないし、議論の中にもない。それは、雨を防ぐことによってあるとわかるが、そうでなければ、そこが室内であるということもわからない。ガラスと窓をこれまでと全く異なるものとして考えるためには、その定義をどう拡張すればいいか。「ガラスについてどう考えますか?」という質問では、普通、ガラスを建物を支えるものとしては考えていないでしょう。しかし私は、そのような構造要素として考えてみたいと思います。

小渕 窓を異なる問題群のなかに位置づければ、別の可能性も浮かび上がるでしょうか? たとえば、デジタル技術のなかで考えるとどうでしょう?

モス 我々はまだ、ガラスの構造的な可能性、透明性の可能性、あるいは工学的可能性を十分に発展させていないのではないでしょうか。そのような物理的な可能性を探る余地がまだ多くあると私は思っています。デジタル技術には、以前には実現が困難だったことを可能にする力がありますが、それ自身の問題や課題もあります。

「百聞は一見にしかず」という表現がありますね。言いかえると「それを見せてくれたら、私は信じよう」ということです。その反対は、「それが信じられれば、私は見てみよう」、つまり「とにかく、まずやってみよう」ということです。私がよくプレゼンテーションで言うことなのですが、「まだやっていないことをリハーサルすることはできない」という言い方があります。つまり、知らないことを練習することはできないと。練習の仕方がわからないから、練習できない。しかし、あなたは「とりあえず」と言うことができます。いきなり完璧にしようとしない。

アメリカのスポーツでは、それを「Rep」と呼びます。「繰り返し (repetition) 」のことです。もしクォーターバックなら、ボールを投げる。投げる。とにかく投げる。とにかく練習を繰り返す。その理屈は、どんなゲームの局面であっても、何度も練習していれば対応できる、ということです。

  • Umbrella ©Eric Owen Moss Architects

建築においても、SCI-Arcのような学校は、外で進行していることを理解して作業するようなポジションを目指す必要はないと思っています。「わからないもの」を話題にすること、教育や議論の対象とすることは、問題ですらあります。そのようなものは、それを議論したい人々が考えるべきことです。それを議論したいということは、つまり「私にはわからない」と言いたいということだと思いますが。

私の講義ではこういう言い方をしたこともあります。「聞いたことがないものに耳を傾けることができるのか?」と。あなたは私の話を聞こうとしている。しかし、それは実は、あなたは既に答えを用意しているということではないでしょうか。

もしこれまでに聞いたことのないことを聞いたとしても、あなたはそれを退けるか、自分が見ている方向に合致するようにねじ曲げてしまうのではないでしょうか? 特に、自分で作業を進めている人にとって、話を聞いて学ぶということがそもそも可能なことか? 自分が認識していないものを聞くことはできません。良い建築家、経験豊かな建築家になる秘訣は、自分がしようとしていることをすべてわかるようになることなのでしょうか?

私は若いとき、自分が何をするべきか、わかりませんでした。しかし今はわかります。私が言いたいのは、これは建築の終わりではないか、ということです。誰もが、わからないことを聞こうとする。しかし、東京大学でも、イェールでも、SCI-ArcでもAAでも、教育の秘訣は、ある意味でそれをやめることです。

小渕 しかし、繰り返しによって身につけた専門知識は、実際、技能やそれを発揮できる領域の感覚を発展させてくれますよね。

モス その通りです。ポイントは、あなた自身で何かをつくり、それから分解してみるということでしょう。つまり、自分はわかっていると思っているが、やってみると、そうではないかもしれない。ある種の自信は必要ですが、それ以上に、驚きを感じることができる謙虚さがなければなりません。自分でつくって、自分でバラしてみるのです。

小渕 今日の議論から見えてくることは、「すべてをできるようになるだろうか?」と心配しているようなところでは得られないレベルの専門知識がある、ということでしょうか。人は、とにかく何かの専門家になる。何かが得意になって、あるレベルに達する。しかし、言えることは、「とどまるな、先へ進め」ということだけだと。

  • Samitaur Tower ©Eric Owen Moss Architects

モス 我々は、現在起こっていることをよく知っていそうな専門家や有名人に、すぐ話を聞こうとします。しかし、私がかつて学んだ教訓は、それに耳を傾ける必要がないということでも、それに対して誠実さを持たなくてもよいということでもなく、しかしそれを純粋に理解することが必要だ、ということです。しかし、より深いレベルで、あなたが哲学的あるいは概念的な決断について話そうと言うなら、確かに私が頼りにしてきた私自身の考え方について話せることはあるかもしれません。というのは、私は他の誰かを頼りにすることはできないと思ってきたからです。

子供が絵を描いたり、何かをつくっているのを見ると、そこに無知による自由があることがわかります。知識や思考には、限界と制約があります。私にとって価値とは、わからないことのなかにあるものであり、経験や知識よりも、作業において現れてくるものなのです。

  • “Who says what a window is?” (誰が窓を規定するのだろう?)

エリック・オーウェン・モス/Eric Owen Moss
米国カリフォルニア州ロサンゼルスで生まれ育つ。カリフォルニア大学ロサンゼルス校にて学士を取得。カリフォルニア大学バークレー校のカレッジ・オブ・エンバイアンメンタルデザイン、ハーバード大学デザイン大学院にて修士号取得。エリック・オーウェン・モス・アーキテクツを1973年に設立。これまでに100以上の地方、国内、および国際的なデザイン賞を獲得。1999年アメリカ文学芸術アカデミーより建築部門でのアカデミー賞、2001年AIA / LAゴールドメダル、2003年カリフォルニア大学バークレー校より識別同窓会賞受賞。2007年、建築設計の歴史的に由緒ある賞として認められるアーノルド・ブルナー記念賞受賞。2011年には英国王立建築家協会 (RIBA) よりジェンクス賞受賞。2014年、全米科学アカデミー就任。2016年、人文科学分野におけるオーストリアン・デコレーション・オブ・オナー受賞。また、ハーバード、イェール、コロンビア、ウィーン応用芸術大学、デンマーク王立芸術アカデミーを含む世界の主要大学で教職を歴任。南カリフォルニア建築大学 (SCI-Arc) で長く教授を務める。2002年から2015年まで、同校の総括責任者としての経験を持つ。
http://ericowenmoss.com/

小渕祐介/Yusuke Obuchi
1969年千葉県生まれ/1989~91年トロント大学建築学科/1991~95年Roto Architects/1997年南カリフォルニア建築大学卒業/2002年プリンストン大学大学院修士課程修了/2002~03年RUR Architecture/2003~05年AAスクールコースマスター/2005~11年同スクールデザインリサーチラボディレクター/2013年ハーバード大学Graduate School of Design講師/2012~13年プリンストン大学大学院客員准教授/2010~14年東京大学特任准教授/2015年~東京大学准教授
http://t-ads.org/
http://obuchi-lab.blogspot.jp/

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