April 22, 2019

6a architects
素材とディテール

トム・エマーソン (建築家/スイス連邦工科大学教授)

ロンドンをベースに活躍する建築設計事務所、6a architects。写真家ユルゲン・テラー(Juergen Teller)のフォト・スタジオで英国の最も優れた建築に贈られる建築賞RIBAスターリング賞にノミネートされ、雑誌エル・クロッキーで特集が組まれるなど、アートや教育の分野を中心に活動の幅を広げている。
創立者のひとりで、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)で研究室をもつトム・エマーソン氏に、これまでのプロジェクトとその根底にあるものについて聞いた。

 

──2018年のヴェネチア・ビエンナーレでは、6a architectsによるケンブリッジ大学の学生寮《コワン・コート》についての短編映画を出展されていました。まずはこの建物について教えて頂けますか。

《コワン・コート》は、1960年代にケンブリッジ大学チャーチル・カレッジが創設されて以来、初めての新築の学生寮です。私たちはカレッジと自然のこれまでの関わりを反映するような建物にしたいと考え、もともとの建物群のブルータリズムに通じる粗い仕上げの木材をつかいました。ケンブリッジは伝統的に、すでにある自然の風景を尊重するランドスケープの文化が根付いた土地なので、建築を風景の一部のように見せることが重要でした。

  • Tom Emerson, 6a architects

そこでアーティストで映画監督のベン・リヴァースにこの建物をテーマにした映像作品の制作を依頼しました。これまでも彼は環境にまつわる多様な側面、たとえば私たちが環境の中でどのように存在しているか、そして人々がどのようにして自然史の一部として存在しているかといったことをテーマに映画を制作してきました。

今回の映画『ツリーズ・ダウン・ヒア(Trees Down Here)』では、彼はカレッジの様々な風景を夢のように紡いでゆきます。そこでは敷地に立つ木々、動物たち、人間やそれをとりまく環境が季節の移ろいの中に描かれます。

  • 6a architects, Cowan Court at Churchill College (2016)
    Photo Johan Dehlin

──リヴァース監督はベン・ラッセルとの共作など実験的な作風で知られています。映画のプロデューサーも務められたとのことですが、映画は昨年のニューヨーク映画祭など各地の映画祭でも上映されたそうですね。ビエンナーレの会場では多くの建築家が建築模型を展示していますが、なぜ模型ではなく映画をつくったのですか?

会場には毎回大きな模型が展示されていますが、全てを見尽くすのは少し大変だと感じることもあります。一方、映画を流せばそこでしばらく足を止めたり座ったりできる。そうすることで少し落ち着いた時間が生まれると考えました。
映画にはフクロウやヘビといった様々な生き物、木や雪といった自然の要素が表出しますが、今回映画という手法を採用することで、建物を取り巻くある種の空気といったものをよりうまく表現できると思ったんです。

  • ヴェネチア・ビエンナーレでの上映の様子。
    映画は16mmフィルムで撮影された
    Trees Down Here (2018), Ben Rivers (Director), Tom Emerson (Producer)

建築は第一に建物のあり方をあつかうものですが、同時に風景のあり方に関わるものでもあると思っています。そういった意味では、映画の上映は模型を見るのとは異なる体験を提示できると考えました。


自らは座ることのない木陰のために木を植える

──展示キャプションには「自らがその木陰に座ることはないのを知りながら老人が木を植えるとき、社会は大きく成長する」 (A society grows great when old men plant trees whose shade they know they shall never sit in.”) という古いギリシャの諺の引用がありました。

つまり、私たちは未来のためにものをつくる必要があるということです。ある老人が木を植えたとすると、彼自身がその木陰に座ることはなくても、将来子どもや孫はそこに座ることができるかもしれない。つまり未来のために今、準備をしておく。体験はその後のことです。

1960年代の初め、ケンブリッジにチャーチル・カレッジが創設されたとき、創立者のウィンストン・チャーチルは一本のナラの木を植えました。今では樹齢60年の大木です。いわば彼は木を植えた老人で、今ではその木陰に学生が座っているのです。この建物をつくったとき、私たちも30本の木を植えました。

  • 6a architects, Cowan Court at Churchill College (2016)
    Photo David Grandorge

──設計を通して歴史を継承されている。

その通りです。私たちがやっていることはキャンパスの建物がもつ様々な歴史を受け継ぎ、自分たちの要素をそこに添えることです。諺のように、それが私たちのプロジェクトと共鳴しあっている気がしたんです。

──なぜベイ・ウィンドウをそれぞれの部屋に設えたのですか?

1960年代に建てられたカレッジでは、すべての部屋に腰掛けられるベイ・ウィンドウがありました。そこで学生たちは座って外を眺められるようになっていました。最近の建物では環境対策用に壁に断熱材がたっぷり入っていて、この建物の場合も60センチの厚みがありました。それを見たとき「もともとのカレッジのベイ・ウィンドウとだいたい同じ厚みでは」と思ったのです。建物の外壁面まで窓を後退させることで、壁の厚みを活かしてそこに人が座る空間をつくることができる。

こうして学生一人ひとりのための座れる窓を設えるアイデアが生まれました。くつろいだり、本を読んだり、ただ外を眺めたりするための場所です。部屋の中に小さな部屋をつくったといってもいいかも知れません。

  • 6a architects, Cowan Court at Churchill College (2016)
    Photo David Grandorge

──断熱の話がありましたが、この建物は「パッシブデザイン」を採用されていると伺いました。それについて少し教えてください。

パッシブ・デザインの主眼はエネルギーを逃がさないことです。そのためには高断熱の外皮で建物を覆うことが第一です。先ほど触れたようにこの建物の断熱性は非常に優れていて、壁には30センチの断熱材が入っています。屋根も床も同様です。
窓は三層ガラスの極めて高性能なもので、換気シャッターも断熱されています。こうして壁、屋根、窓といった建物のあらゆる部分においてハイレベルの気密性を達成して、空気を逃がさないようにする。これが最初のステップです。

二つめの重要な要素は自然換気です。この建物は全館でシャッターをつかった自然換気ができるようになっているので、学生は自分たちで空気の出入りを調整できます。廊下の窓にはセンサーがついていて、空気中の二酸化炭素レベルや温度変化をモニタリングでき、空気と温度が適切になるよう窓はいつでも開閉できます。

  • 6a architects, Cowan Court at Churchill College (2016)
    Photo Johan Dehlin

さらに各部屋に換気孔を三つ設え、見えないところで空気の入れ替えがされるようになっています。ドアと窓を全部閉め切っても最低限の換気は確保できるパッシブなシステムで空気が新鮮に保たれるようになっている。それから屋根全体には太陽電池パネルが設置され、電気を供給しています。建物は木造なので躯体の熱容量は非常に小さくなっています。

──パッシブ・デザインをこの建物に採用した理由は何だったのでしょうか。

建築規制という法的な意味でも倫理的な意味でも、建物の省エネ化を考慮したデザインが現在求められていると思います。文化や教育関連の施設ではとりわけそうですね。これは建物の総エネルギー消費量をできるだけ減らしたいという要求に後押しされている部分もあるかもしれません。

 

開口部が風景との関係をつくる

──最新のプロジェクトについても伺いたいです。3月には、英国の《ミルトン・ケインズ・アートギャラリー》 (MK Gallery) が大規模な改装を経てリニューアル・オープンしました。このプロジェクトも大きな窓が特徴的ですね。

はい、前提として私たちのプロジェクトはすべて窓に関係しているのですが、中でもいちばん目を引く開口部があるのがこの《ミルトン・ケインズ・アートギャラリー》です。これは簡単にいうと巨大な窓のついた大きなスチールのボックスで、オーディトリウムの巨大な円形の窓からミルトン・ケインズの街の端──つまり街と公園がぶつかる箇所ですが──を見通すことができます。

ミルトン・ケインズの街は1960年代後半にユートピア的な都市プロジェクトとして誕生しました。ロサンゼルスと田園都市を絨毯のようにグリッド状に編み合わせ、バッキンガムシャー州のなだらかな地勢に配置したような都市です。

  • 6a architects, Milton Keynes Art Gallery (2019)
    Photo 6a architects  
  • 開口部からグリッド状に整備された都市を見下ろす Photo Iwan Baan

この非常に大きな半円形の開口部が切り取る風景は四角形の窓のそれとはまったく異なります。この窓があることで眺望に対して強く意識を向けることができる。直径は10メートル、高さは5メートルの半円で、洞窟から景色を眺めるような、ある意味ではほとんど自然に根差した造形です。モニュメンタルといってもよいかもしれません。

──あなたのプロジェクト開口部と風景は密接に関連したものといえそうですね。

そうですね、ケンブリッジとミルトン・ケインズのプロジェクトではその通りだと思います。前者は風景の中に、後者は風景のエッジに立地していて、どちらのプロジェクトもランドスケープと密接に関わっている。その意味で、窓は風景をフレーミングする、あるいは風景との視覚的な関係を組み立てるとても重要な建築的要素です。

 

ほんのわずかな違いが建物の雰囲気を変える

──2016年にはマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)の広告写真などで知られる写真家、ユルゲン・テラー(Juergen Teller)のフォト・スタジオの設計をされています写真家は光に対して特に意識的だと思いますが、スタジオを設計する上で注意したことはありますか

このプロジェクトではあらゆることが非常に精密でした。ユルゲン・テラーは写真家ですが、一般的なフォト・スタジオのような白い背景では撮影しません。彼はそういった撮影方法を嫌います。代わりに被写体を様々なシチュエーションに置いて撮影をおこないます。ですから彼の撮る写真はいつも人々の現実、実際の生活を映し出します。

  • スタジオの前で撮影をおこなうユルゲン・テラー Photo Johan Dehlin

このスタジオの特徴は、天井から採光することで北側からのとても良い光が入るところです。光は直接降り注ぐのではなく、天窓からコンクリートの梁の隙間を通って室内に入ってくる。側面からも光を入れ、すべての部屋で上と側面から採光しています。

ここでは上からの光を多く、側面からは少しだけ入るようにしています。これは北からの光は冷たく、側面から入る光は暖かいという光の違いが関係しています。肌の色などは、色味の異なる二つの光があった方がおもしろい効果を生むことがありますから。

──それぞれの光の微細な差まで意識して設計されているのですね。

この建物では、すべての部屋に上からの光と横からの光を入れるため、どんな小さな部屋でも二つの開口部があります。それが今回の理想的な採光の原則なのですが、実現する方法には正解も不正解もありません。仕事や人のタイプによって解決法は違います。自然光で撮るユルゲンの場合でも、もちろんほかのやり方はあると思いますが、今回は二面採光が原則でした。

  • 6a architects, Photography Studio for Juergen Teller (2016)
    Photo Johan Dehlin

──窓そのものには何か工夫がありますか?

ロンドンの倉庫の古い窓を調べたのですが、だいたいのものは窓枠の角が丸められています。倉庫のような建物ではものがぶつかることもよくあるので、当たったものが傷まないように角を少しなめらかにしているのです。

このことには同時に、光が入るときにエッジをやわらかく見せる効果もあります。窓の角がシャープだと、明るいところと暗いところの差が非常に大きく、境目もはっきりしてきます。逆にこうして角を丸くすることで光をやわらかくできる。
つまり光が視覚的にやわらかく見えるとき、窓枠はさらにほんの少し丸みを帯びているのです。本当に、ものすごく微妙なことですが、こうしたことで建物の雰囲気はわずかに違ったものになる。

  • 6a architects, Photography Studio for Juergen Teller (2016)
    Photo Johan Dehlin
  • 6a architects, Photography Studio for Juergen Teller (2016)
    Photo Johan Dehlin

かなり近くに寄ってよく見てみないと分からないのですが、これらの窓のエッジの丸みの程度はすべて違います。本当に微妙な、かすかな差です。ええ、気づく人は誰もいないでしょう。私たちだけが知っていることです。
けれどこういった操作によって、この建物を一見したときのタフでコンテンポラリーな印象と実際の内部の雰囲気は、かなり違ったものになる。それがどこか不思議な印象を建物にもたらしているのです。

──素材はを使用しているのでしょうか

建物は総コンクリート造で新築です。かなり頑丈でブルータルな建物ですが、窓まわりは木製です。木とコンクリートはとても相性が良いんです。コンクリートの型枠は木製ですから。こうすることでコンクリートの表面に木の記憶が消えずに残ります。こうして木の窓は建物全体の雰囲気に不思議と調和しました。

──お話を伺っていると、コンクリートや木など経年によって変化する素材を好んで用いておられる感じました。

はい、それも先ほどのギリシャの古い諺の話に出た、ものごとが成長していくことと衰えていくこと、あるいは自然であること、そういったことに帰ってくるように思います。私たちは、変わらず永久に同じ状態であり続ける建築をつくることに興味はありません。
ある建物が完成した日、それはある意味でその建物の一生の最初の日でもあると思います。人の一生で考えれば、赤ちゃんとして生まれて人生が始まり、成長して年をとり、さらに年をとって、いずれは死にます。私たちは実はずっと変わり続けている。建築もそうあって欲しいと思います。

「この建物は500年前に建てられたときとは変化しています。それは年を重ね、使い古され、風合いが生まれ、いろんなものの痕跡が刻まれている。だからこそ、この建物は美しいんだ」と。それが私たちの考える「完成」です。仕事をする上で私たちが関心を寄せるのもまさにその部分なんです。

 

 

トム・エマーソン/Tom Emerson
建築家。2001年にステファニー・マクドナルドとともにロンドンで6a architectsを設立。RIBA建築賞、エーリヒ・シェリング建築賞(ノミネート、2012年)、スターリング賞(最終候補、2017年)などを受賞。主な書籍に「Never Modern」(Park Books、2014年)、「El Croquis 192: 6A Architects 2009-2017」(2018年)がある。
エマーソンはバース大学、ロンドン王立芸術院、ケンブリッジ大学で学び、AAスクールおよびケンブリッジ大学で教鞭を執った後、2010年よりスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)建築学教授。 http://www.6a.co.uk/ 
https://www.emerson.arch.ethz.ch/

Top: Photo courtesy of Johan Dehlin