成瀬友梨・猪熊純 窓とシェア/後編
24 May 2013
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「シェア」をテーマにプロジェクトを発表し、注目されている建築家、成瀬友梨・猪熊純へのインタビュー。「シェア」から考える「窓」の役割や魅力、課題について伺った。
“窓”の性能向上は風景も変える
成瀬 断熱性能がすごく上がってきているおかげで、東北でよく設計をしている建築家の人とかは、ほんとに窓を作りやすくなったって聞きます。
猪熊 大きい開口部でも冷えないということね。
成瀬 寒いから、光をたくさん取り入れて中に入れたいのに、寒いから窓を小さくせざるを得なかったものが、今は樹脂サッシにもなって性能がいいから大きく開けられて明るい。外に開いた家が作りやすくなったそうです。そういう意味では、昔はその東北の街は窓が小さかったけど、大きくできるようになってきたから、外との関係が取りやすくなったみたいな話を聞いたことがあるんです。
猪熊 それはほんとすごいよね。窓の性能の向上で街の風景が徐々に変わるっていうことですからね。
成瀬 「りくカフェ」も結構窓大きいですし。
猪熊 すごく暖かいんですよ。ほんとに喜んで頂いていて。うちより暖かいわって、よく運営をしているおばちゃんたちが言っています。
成瀬 やっぱりあれ、昔のものだと、あんなに開けていたら寒くて冬使えないんだと思うんですよね。でも冬も使えるのは、そういう進歩のおかげ。
“窓”を開いて街を「シェア」する風景へと変わっていけば面白い
猪熊 敷地の中とか、あるいは建物の中で閉じない緩やかな繋がりが、視覚的にも無理なくできあがっているような風景になったらいいなあと思っていて。もともと、昔の町屋とかは、すごく長い時間掛けて作ってきているので、格子窓とかもそうですけれど、基本的には人の暮らし方や都市構造に根差した、「いい距離感」っていうのが、徐々に培われてきたと思うんです。
そういう「繋がり方」みたいなものを、20世紀ってたぶん一旦置き去りにしてしまって、床の面積をまず取りたいとかっていうことから、道路と巨大なマンションやオフィスビルといった建ち方に都市が変わってしまったと思うんですよね。それは、道路と建物が切れた状態になった時代な気もして。
でも、窓の技術が建物の開き方を自由にしていって、20世紀的な建物の建ち方に合った道との関係が徐々に積み上がってくると面白い。
単に過去に戻るわけでもなく、一旦先にボリュームだけが建ってしまって矛盾した関係が続いていた時代を乗り越えて、現代らしい外部環境との関係が、窓を通してもう一回生き生きとした全体の街並みたいなものに繋がっていくと、とてもいいなあと思いますね。
成瀬 性能が上がって、窓を大きく開けることが可能になってきている中で、住宅は街に対して閉じている状態で、すごく自分の敷地とそれ以外っていうふうに思っている人がほとんどだと思うんです。それが、窓が開いていくことで、その外側もなんとなく自分と関係している領域みたいな意識がだんだん芽生えていって、住んでいる人たちが、街を自分たちが作っているんだという気持ちというか意識がちょっと生まれてくるといい。
今公共のスペースとかは全部役所任せで、税金払っているからいいだろうといった感覚を、みんな持っていると思うんですけど。実はそういう時代って成り立たなくなってきて。みんなで自分が住んでいる街をなんとなく作っているような意識を持っていくと、より魅力的な街並みになったり、好きな場所になったりすると思うので、そういう意識を育てていく中で窓が果たす役割っていうのは結構大きいのかなと思っているんですよね。開けば開くだけいいっていう話でもないとは思うんですけど。でもその街に対する建物の在り方、住宅の在り方みたいなものが、窓の変化によって変わっていくので、そういう街作りとか、そういうものの意識にも影響を与えていくようなことがあったらいいんじゃないかなあと考えています。
記憶に残る“MY BEST WINDOW”は?
猪熊 僕がもともとそういう、窓と窓辺の空間全体を一緒に考えていくのが面白いと思った最初のきっかけは、修士論文で研究したリチャード・ノイトラっていうミッドセンチュリーのアメリカの建築家なんです。アメリカでモダンが主流になり始めた時期の人で、住宅作品を中心として、開放感のある構成を得意とした建築家です。その研究を始めてから気づき始めたのですが、彼は大きな開口部に家具を製作で作りつけてセットにするんですね。
例えば、ソファーと窓がくっついていたりとか、棚と窓がくっついていたりとか、ベッドと窓がくっついているみたいな設計をたくさんするんです。ひとつの部屋の中で、窓辺だけ、すごく特徴的な場が作られている。あとはフリースペースで、家具は住む人が自由にレイアウトしたり入れ替えられることになっている。ほんと窓辺だけ、意識的に作り込むっていうタイプの人で。なぜそれをやっているのかという研究をしていたんですよ。窓辺って部屋だけ見ていると、部屋の端っこじゃないですか。でも、彼は、外の風景と部屋の風景を一緒に捉えて、窓辺を領域の中心にする設計をするんですよ。だからすごく面白いんですけど。
今思えば、窓と窓辺が外と中を調整していくといった興味は、たぶんその頃にスタートしたかなと。
成瀬 私自分の体験の中で窓が強烈にあるのはやっぱり、小学校とか高校の時の学校の教室の窓がすごく印象に残っていて。窓の外ばかり見てなかった? 席替えで窓辺に行きたくてしょうがなかったんですよね。日が当たって暑いんですけど、でもすごい外の運動場とかが見えて。私の通っていたところはどこもバルコニーがなかったので、腰壁がちゃんとあるんですよ。気持ちのいい時とかは窓を開けて、ずっとこうやって(笑)。
運動場で同級生が体育をしているのを見ていたりとか、渡り廊下を先生が歩いていくのを見たりとかして。その時って授業も受けているんですけど、ものすごく自分の時間を満喫しているっていうか(笑)。 背中のこの辺に柱型とかがある席にくると一番良くて。柱型のコーナーのところにこうやってはまってこうやって(笑)。 すっごく机を窓に寄せたりとかして座っていて。窓がこういう高さ (※肘の辺り) にあって、そういう窓辺のイメージがあるので。窓がない講義室とかに行くとすごく集中できないなっていう(笑)。 休み時間とかも結構一人でいた時とかは窓のところにいましたもんね、やっぱり。違う席にいると、休み時間とかは誰かのところに行かないと落ち着かないんだけど、窓辺の人は結構座ってたんではないかな(笑)。
『窓は 建築に命をふき込むもの』
猪熊 窓は何のためにって思うと、街並みの話もそうですし、中での活動もそうですけど、やっぱり窓がよくできていることが、その周辺の場も含めて、生き生きした場所を作っていくために、すごく大事なことだと思っていて。
空間が途切れているとやっぱりそれは感じ取れないですし、あるいは窓が一個もない建物はきっと相当うまくやらないと憂鬱な空間になってしまいがち。そこに窓がいくつか開くだけで急にそれが生き生きとした空間になってくる。それは、外に繋がるっていうこともだし、光が入るっていうことかもしれないし、風が入ることかもしれないんですけど。建物が生きた場になる瞬間は、窓を開けた時だと思うんです。それが、結構いろんな意味で、都市レベルの話から、街並みレベルの話、人の生活のレベル、人と人との関係まで含めて、全部に共通するなと思っていて。
よく言う話かもしれないんですけど、やっぱり生きているものって全部穴が開いていて(笑)。それは呼吸しているからであり、ものを見ているからであり、食べ物を食べているからでありっていう。それとちょっと近い感覚もあって。死んだ箱に穴が開いた瞬間に、それが生きたものになってくる感覚っていうのが、根本的にはすごく好きです。それが人の生活とか、街の中でのライフスタイルに繋がっていく感じがする。生き生きとした場作りのためには、「窓」がほんとに大きい鍵になってくると思います。
猪熊純/Jun Inokuma (建築家・首都大学東京助教・成瀬猪熊建築設計事務所)
1977年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。同年千葉学建築計画事務所勤務。 2007年より成瀬・猪熊建築設計事務所共同主催。2008年より首都大学東京助教。
成瀬友梨/Yuri Naruse (建築家・東京大学助教・成瀬猪熊建築設計事務所)
1979年生まれ。東京大学大学院博士課程を単位取得退学。成瀬友梨建築設計事務所を経て、2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。2009年より東京大学特任助教。2010年より同助教。
成瀬・猪熊建築設計事務所
建築はもとより、プロダクトからランドスケープ、まちづくりまで、様々なデザインを行う。近年では、場所のシェアの研究を行い、新しい運営と一体的に空間を作ることを実践。コワーキングスペース・シェアハウス・コミュニティカフェなどを設計中。HOUSE VISION TOKYO EXHIBITION 2013に出展 http://house-vision.jp/exhibition.html 陸前高田でまちのリビングプロジェクト進行中:http://rikucafe.com/ INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS 2009 、DESIGN FOR ASIA AWARDS 2009 Merit Recognition、グッドデザイン賞2007 など、受賞多数。 事務所HP:http://www.narukuma.com/