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Transition of Kikugetsutei上映会@第10回ロッテルダム国際建築映画祭

9 - 14 OCT, 2018

2018年 第10回ロッテルダム国際建築映画祭にて、短編映画『Transition of Kikugetsutei』の上映会が開催されました。同作は、早稲田大学 中谷礼二研究室と窓研究所が共同で取り組む窓学研究『柱間装置の文化誌』において、2015年に制作された作品です。現在、窓研究所ホームページにて詳細が公開されています。

 

──上映会参加報告
瀬尾憲司/『Transition of Kikugetsutei』監督

ロッテルダム国際建築映画祭(Architectural Film Festival Rotterdam、以下AFFR)とは建築・都市に関するドキュメンタリー・映像作品を紹介する映画祭である。ロッテルダムが2001年の欧州文化首都に指定されたことを受け、2000年に発足。今回で10回目の開催となる。例年、約5日間に渡り開催しており、近年では約7500名が来場する規模となっている。映画祭では、通常、一般公募で選ばれた新作に加えて、数本の旧作が上映されている。映画祭のほかにオンライン映像配信サービスやトークイベント、レクチャー、展覧会などを運営・開催している。

現在、AFFRの他にも「建築映画祭」と名のついている映画祭がポルトガル、コペンハーゲン、バンクーバー、チューリッヒ、ニューヨーク、ロンドンなどいくつかの都市で開催されているが、AFFRはその中でも歴史が古く、開催規模の大きな映画祭だと言える。

2018年 第10回 AFFR
今回の映画祭は、2018年10月9日(水)から14日(日)にロッテルダム市内の会場で開催された。新作80本と旧作6本が6日間で上映された。

初日には、「Theatre Hofplein」という劇場でオープニングナイトが開催された。ロビーではバーやジャズバンドの演奏が行われており、多くの人で賑わっていた。建築・都市の映画祭ともあって、堅苦しいこともあるかと想定していたが、実にカジュアルで楽しい雰囲気で映画祭は始まった。長編作品『The Experimental City』(2017年)が上映された。上映前には監督と映画祭運営者によるトークショーも行われた。

  • オープニングイベントが行なわれた劇場「Theatre Hofplein」の外観
  • オープニングイベント開催前の様子
  • ロビーでジャズバンドの演奏を聴く観客たち

2日目からは、場所をアルヴァロ・シザ設計の《LantarenVenster》に変え、上映会が行われた。ゆったりとしたソファが並ぶ待合スペースだけでなく、バーやレストランも併設された会場だ。映画の待ち時間などを過ごしてもらうための工夫が凝らされた劇場であった。向かいにはオランダ写真博物館があり、レム・コールハース設計の《De Rotterdam》なども並ぶ、文化的な立地である。

  • 2日目以降の上映会場となった《LantarenVenster》
  • ロビースペース
  • レストランスペース
  • 『Transition of Kikugetsutei』の上映が行なわれた定員90名ほどのシアター。他にも、定員100~250名ほどの大型のシアターがいくつかあり、映画祭の会場として使用された。


『Transition of Kikugetsutei』上映会
90席ほどのシアターで、一般公募で選ばれた短編映画3作と共同で行なわれた。映画祭で上映された作品の多くがインタビューやナレーションなどのドキュメンタリー要素を含んでいたこともあり、『Transition of Kikugetsutei』はポエティックな作品という位置づけで見られているようだった。それには少し驚きを感じたが、もともとは研究成果として文章とともに発表をしたものを映画単体で取り出しているのだから、仕方ないかもしれない。

上映作品について
AFFRでは上映される作品は建築・都市をテーマにしたもので、そのほとんどがドキュメンタリー映画である。建築・都市と限定されているとはいえ、具体的な題材は多様で、建築家もしくはその作品について、歴史的建造物・都市について、問題を抱えた都市の葛藤の様など、色々な事物・事象が描かれていた。また、描写方法も作品によって全く異なり、インタビューを中心に叙事的に描くような手法もあったり、過去の映像や写真の編集を巧みに用いたものがあったり、ダンスや音楽をつかいポエティックに描くものもあったりと、表現の幅の広さにも学ぶものがあった。

出品作家が集まるブランチミーティングにて、他の作家と話す機会があったが、その場にいた半数以上が建築・都市についての専門家ではなかったこともおもしろかった。映画・映像の作家として学び、製作をおこなってきた人々が建築・都市を重要な問題だと考え作品を作っており、映画祭を主催している建築家たちがそれを受け入れているということが、この映画祭で上映されている作品の多様性を支えている大きな要因だと感じた。

今回の上映作品から、印象に残ったものを3点紹介する。

Coastland』監督:Miruna Dunu
制作国 オランダ=ルーマニア|上映時間 12分

絵葉書のスキャン画像のモンタージュと解説のナレーションだけで構成されている短編作品。絵葉書の選び方やそのトリミングの仕方がとても秀逸だった。古い絵葉書を頼りにコーストランドという観光地化された街の歴史が語られる。『Transition of Kikugetsutei』と同じ回にまとめて上映されていたため、作家とも話す機会があった。彼女も私と同じく建築を学んでいた背景があり、初めて作った映像がこの作品だと話していた。日本でもより多くの建築学生たちが映像をプレゼンテーションのツールとして駆使するようになれば、建築の映像に対するリテラシーも大きく変わることだろう。

Crossed Words: Matta-Clark Friends』監督:Matias Cardone
制作国 チリ|上映時間 70分

  • @Estate of Gordon matta-clark

他のアーティストの目を通して、ゴードン・マッタ=クラークを再考する映画。マッタ=クラークの活動そのものが映画としての可能性を多く秘めていると筆者は考えており、東京国立近代美術館での展示のときも彼の残した映像作品を映画館の中で見られないことがもったいないと感じていた。多くの引用映像とマッタ=クラークの友人たちへのインタビューから当時の彼らの空気感や雰囲気が伝わってくる映画となっていた。

Melting Souls』監督:Francois Xavier Destors
制作国 フランス|上映時間 87分

  • Photo courtesy of Francois Xavier Destors

ロシアの極寒の地にある、産業によってのみ生存し、そして同時に産業によって汚染された街で暮らす人々の生活を追ったドキュメンタリー。本映画祭の中で最も映像の質感のようなものを感じた。インタビュー映像と街を描く風景ショットの配分が絶妙で、取材力・撮影力・編集力の全てに圧倒された。住民から語られるストーリーも興味深かったが、英語字幕をずっと追うのは困難だったので、日本では是非日本語字幕つきで配給してもらいたい作品であった。

映画祭全体の感想
今回の映画祭では多くの建築映画をつくる他の作家と話す機会にめぐまれたことや、自分の映画を見て感想を伝えてもらえたことなど、学ぶものが多くあった。映画というフィールドは商業的なものであるという認識が根強くあると思うが、映画とはそもそも芸術であり、文化を交換するツールでもある。建築・都市というテーマに限って、様々な国の人々が見せ合うという機会は、本当ならば移動することのできない建築を場所を超えて主張するまたとないチャンスだ。柱間装置によって変化していく掬月亭という日本らしい建築の側面を海外の人々に知ってもらえたことは、それだけで価値があったと言えるだろう。

映画祭の運営は少人数で行われており、末端のオペレーションも市民がボランティアとして参加していた。ボランティアの方々の生き生きとした表情からもロッテルダムの文化的リテラシーの高さを感じた。映画祭を見に来ていた参加者たちも、カジュアルな服装の学生や若いカップルから、老紳士まで様々な人々がおり、映画祭が文化として都市に根づいていることが垣間見れた。ロッテルダムはかの有名なロッテルダム国際映画祭が開催される土地なので、映画祭には地元住民も慣れているのかもしれない(ロッテルダムは小さな映画館がたくさんある街なのだ)。いつか日本でも建築映画祭を開いてみたいと感じた。

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