CCA-WRI Research Fellowship Program 2022-2024 Above/Below/Between: Light on a Damaged Planet
The Under- and Overground Built Environments of the Soviet-German Uranium Mining Corporation Wismut
静かなる国家――ソ連・東独ウラン採掘公社ヴィスマットの地上と地下の建築環境
31 Mar 2025
本プロジェクトは、冷戦初期にドイツ東部で展開されたウラン採掘事業をめぐる空間の歴史とその影響を検討するものである。ソ連軍とともに占領下のドイツに到着した軍事地質学者が、エルツ山地の旧銀鉱山でウラン鉱石(ピッチブレンド)を発見したことを契機に、大規模な放射性鉱物の採掘が進められた。この発見は、鉄のカーテンによって分断された政治体制間の核開発競争を促し、同時に核時代の幕開けを示すものとなった。さらに、この採掘事業はザクセン州およびテューリンゲン州を含むソ連支配下の地域に大規模な資源採掘をもたらし、新たに成立した東ドイツ(GDR)をソ連の核計画における主要なウラン供給国、そして世界有数のウラン鉱産出国へと位置づけた。
この採掘を担ったソ連=東ドイツの合弁企業ヴィスマットは、東ドイツにおいて急速に「国家の中の国家」としての性格を確立した。鉱石の採掘・輸送・精錬に加え、労働者の住居、消費、スポーツ、教育、文化、娯楽に至るまでを自らのネットワークで担い、1950年代には最大13万人の労働者を抱えた。また、受け入れ国の医療制度を上回る規模の独自の医療体制を構築した。一方で、軍事的な機密性を維持しながら地域社会と空間的に近接し続けたことは、当該地域の社会的環境に大きな負荷をもたらした。
本プロジェクトは、このウラン採掘事業が40年にわたりもたらした空間変容の歴史とその遺産を検討し、この社会主義的な現象をグローバルな文脈に位置づけるとともに、資本主義/非資本主義という二項対立に基づく環境的・社会的正義の枠組みを問い直す。ヴィスマットによって形成された地上および地下の建築環境は、冷戦下の東西双方において、資源採掘の工業化がいかに空間の思考と実践を形成したのかを考察するための、特異性と同時に普遍性をもつ事例を示している。
なお、モントリオールのカナダ建築センター(CCA)での滞在中、本プロジェクトでは、ヴィスマットの建築環境と、西側の対応例である多国籍企業エルドラド社の空間的成果との比較も行った。エルドラド社はカナダのオンタリオ州およびサスカチュワン州で操業していた企業である。両者の活動においては、影響を受けた地域の植民地的条件が重要な論点となり、ドイツ東部における「逆向きの文化的植民地主義」や、カナダにおける入植者植民地主義といったかたちで、従来の海外植民地主義とは異なる様相が確認された。また、アーカイブの可視性や、近代における地下空間設計の成立といった点も、研究上の重要な論点として浮上している。
さらに、CCAのアーカイブに収蔵されているヴァン・ギンケル・アソシエイツおよびセドリック・プライスの資料群を通じて、「非定住型都市計画」に関するプロジェクトに接したことが、現在進行中の研究における新たな展開の契機となっている。
2023年8月10日開催|2023年度 CCA–WRIシンポジウム「Underground Anxieties」ライブ配信アーカイブ(CCA Youtubeチャンネルより)
オクサナ・グリノヴィッチ/Oxana Gourinovitch
建築家、キュレーター、建築史家。ベルリン芸術大学で建築学修士号(2005年)、ベルリン工科大学で博士号(2020年)を取得。ベルリン、ロッテルダム、アムステルダムの設計事務所に勤務した後、ベルリン工科大学およびアーヘン工科大学で教育・研究に従事した。モントリオールのカナダ建築センター(CCA)では、CCA–WRIフェローを務めた。
国家社会主義体制下の空間とその地政学的変容との関係に関心を持ち、これまでにドイツ研究振興協会、マレ・バルティクム財団、グラハム財団などの助成を受けて研究を行ってきた。現在、チューリッヒ工科大学にてエゴン・アイアーマン・フェローとして在籍している。






