WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載 展覧会レポート:第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 2018

「FREESPACE」を窓から覗く PART 2

柴田直美(編集者)

04 Nov 2018

アルセナーレ会場
ROZANA MONTIEL ESTUDIO DE ARQUITECTURA

メキシコを拠点とするロザナ・モンティエルにとっての「FREESPACE」は、空間を自由にすることと、自由に振る舞うことであり、場所づくりのアクションのための空間である。また彼女は、建築を「social construction(社会的建設)」となぞらえ、「美しさとは贅沢なものではなく、要件と機能から切り離すことはできない基本的なサービスである」という。

「Stand Ground」というこのインスタレーションは、中世の国立造船所跡であるアルセナーレ会場にある、コルデリエ(Corderie)と呼ばれる船を係留するロープなどの製造所だった長い柱廊の空間にある。「change barriers into boundaries(障壁を境界に変える)」という彼女の設計理念をそのまま表すように、垂直に立っていた壁面が地面に敷かれた。アーチ型の窓もそのまま再現された床になった壁面の代わりに、外部世界のいきいきとした生活の様子がわかる映像が壁面に投影されている。垂直に空間を隔てていた壁を壊すことで、閉ざされた展示空間と窓から見える風景が一体になっており、通常は垂直に見ている窓が平面となり、その横を歩くという不思議な体験ができる。展示壁は、リサイクルされたヴェネチアの煉瓦を使用し、実寸で床に再現された。

彼女は建築を作るというプロセスによって、その場所が変わるということに正面から取り組み、その場所を活性化させる「FREESPACE」を作るために以下の実践を行なっている。

1. コンテクストの中でコンテンツを探すーコミュニティとの協力
2. 障壁を水平線に転換するーオープンなコミュニケーション
3. 空間の認識を変えるー創造的に空間を使う
4. 周辺景観を既存要件とするー既存のインフラの再活用
5. マテリアルを再指定するーテクスチャーで場の雰囲気を作り出す
6. 一時的に働くー都度の要求の変化に対応
7. 美しさは基本的な権利の一つであると信じる

  • 壁面には、壁面の向こうのヴェネチアの運河の様子が同時中継で投影されている。
    Photo by Sandra Pereznieto
  • 製造所だった空間なので、窓は明かりとりとして高い位置につけられ、鉄格子がはまっている。
  • テーブルにはソーシャルハウジングプロジェクトでの公共空間の取り込み方の方法論など、実際に事務所がどうやって設計を進めているのかがわかる資料が展示されている。
    ©Sandra Pereznieto

 

オランダ館
キュレーター:マリーナ・オテロ・フェルツィエ

「WORK, BODY, LEISURE」と題し、労働環境とその条件の劇的な変化によって生まれる、空間構成や暮らしの状況、人間の身体という概念を新しく定義を模索する展示。

オランダには、労働について実験的な取り組みをしてきた土壌がある。オランダ出身のアーティストであり、シチュアシオニスト・インターナショナル(1957年にイタリアで結成された、芸術運動による社会変革を目指した前衛グループ)のメンバーであったコンスタント・ニーヴェンホイス(1920-2005)が提唱したプロジェクト「ニューバビロン」は、オートメーション化によって得られるフリースペース(自由な空間)とレジャーの建築的パラダイムであり、社会は創造と遊びを誘引し、個人はそれぞれの環境を自分でデザインできるとされる。しかし彼がいう、オートメーション化によって労働から解放される喜びやその可能性についての楽観的な見方は徐々に行き詰まりを見せ、機械に労働を奪われた人間の失業や不平等さなどのディストピアが予測されている。現代の労働構造を新たな倫理原則に基づいて再定義し直す必要があるのである。

ロッテルダム、ヘット・ニュー・インスティテュート(Het Nieuwe Instituut)のリサーチ部門のヘッドであるマリーナ・オテロ・フェルツィエがキュレーターを務め、ヘット・ニュー・インスティテュートが長い間行って来たオートメーション化による構築環境への影響についての「Automated Landscapes」というリサーチに基づき、人間と機械のための空間やプロトコルを分析している。また法律、文化、インフラ技術などの観点から議論する予定。

展示はロッカーの扉が壁面いっぱいにある。ロッカーは仕事着に着替える時に使うことから、労働と非労働のインターフェイスとして採用された。扉には遊び場、オフィス、工場、窓、ドアなど建築のタイポロジーが書いてあり、それぞれ開けると、内側にはリサーチ資料や映像、またはロッカーの向こう側の空間を覗き見ることができる。

  • ロッカー、床まで、オランダの国の象徴の色であるオレンジ色。
    ©Daria Scagliola
  • #SIMULATIONという扉の向こうには〈Safety Measures〉というタイトルのシモーネ・C・ニキユによるゴム人形が白黒のエアベッドの上で跳ねているインスタレーション。デジタルアバターを使って労働者の安全を測定する提案。
  • Windowと書かれた扉を開けると、売春が合法であるオランダにある飾り窓地区(赤線地区)での性労働について、アムステルダムミュージアムとロボット工学の社会的責任を研究するオランダの財団と共同でリサーチした結果が展示されている。
    ©Naomi Shibata

柴田直美/Naomi Shibata

編集者。1975年名古屋市生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、1999~2006年、建築雑誌「エーアンドユー」編集部。2006~2007年、オランダにてグラフィックデデザイン事務所thonik勤務(文化庁新進芸術家海外研修制度)。以降、編集デザイン・キュレーションを中心に国内外で活動。2010〜2015年、せんだいスクール・オブ・デザイン(東北大学・ 仙台市協働事業)広報担当。あいちトリエンナーレ2013アシスタントキュレーター。2015 年、パリ国際芸術会館(Cité internationale des arts)にて建築関連展覧会施設について滞在研究。2017年、YKK AP「窓学」10 周年記念「窓学展―窓から見える世界―」展示コーディネーター。
www.naomishibata.com

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