WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載 窓をつくることから学ぶ

第3回 開ける窓の楽しみ

コンゴ・アカデックス小学校プロジェクトチーム/小林博人研究室 (慶應義塾大学)

21 Dec 2017

慶應義塾大学SFC小林博人研究会による連載第3回目は、アフリカ・コンゴ共和国の小学校の窓をつくるプロジェクトを紹介。開閉できない鉄格子の既存の窓に対して、プロジェクトチームが教師や子どもたちと共に考えつくりあげた窓とは。

 

トランクをバンに詰め込み、乗り込んだ車の車窓からみた景色は、これまでアフリカに対して抱いたものとはかけ離れていた。アフリカ大陸の中西部に位置するコンゴ民主共和国。人口900万人を擁し、東京都の半分ほどの面積に人口の集中する首都キンシャサには高層ビルが建ち並び、舗装された道路には高級外車も珍しくない。ここがアフリカの一都市とはだれも思わないだろう。

しかし、そこから車を走らせること2時間。まちなみは一変する。我々の活動する「アカデックス小学校」が位置するキンシャサ近郊のキンボンド地区には自分たちが想い描くアフリカの景色が広がっていた。2008年以降、我々はこの地に毎年足を運び、コンゴの子供たちに生きる力を身につけてもらおうと、教育や医療のプログラムを考えるとともに毎年1棟ずつ教室をつくり続けている。

緑がまぶしいマンゴーやパパイヤの木々、どこまでもつづく砂の台地。この雄大な自然のなかには人々の生活の活気が溢れながらも、どこか穏やかで急くことのない時間の大河が流れる。日中は野菜や魚、捌いたばかりの肉などの食材や日用品を売る店がにぎわい、道路まで人が溢れる。一方、夜はアフリカンミュージックを聴きながらビールを飲み、語り明かす。そして静寂のなか夜が明け動物の声が聞こえはじめる。

キンボンド地区に建つ住宅はモルタルのブロックでできている。これらの多くはコンクリートでできた基礎の上にブロックを積み上げ、最後にトタン屋根をかけて出来上がる、非常に簡素なものである。

この建物の窓には防犯のために鉄でつくられた格子がはめ込まれている。はめ殺しのこの鉄格子は室内と外界とを物理的に遮断している。まるで監獄の鉄格子のように、相手の顔は見えるがそこには常に鉄の格子が存在する。

小学校も例外ではない。全ての窓には無機質な鉄格子が組み込まれている。教室のなかから外をながめても視界のなかにはいつも格子が存在する。風にふれるために窓を開ける。天気が良い日に窓を開ける。外の景色を見るために窓を開ける。そのような行為がここには存在しない。なぜなら、窓には揺らぐことのない強固な鉄の格子が存在しているからである。

窓を「開ける」。その行為は単純に扉を開くということではない。人と人をつなぐ、人と自然をつなぐ行為であり、建物の「ウチ」と「ソト」をつなげる行為なのである。毎朝、目が覚めて窓を開ける。雨がやんだら窓を開ける。友人が訪れたら窓を開ける。窓を「開ける」という行為が人々の生活を豊かにする。

そのような想いから2016年度に設計・施工した保健室では、「開ける」楽しみを生み出すような窓を考え出した。外に鉄格子をはめてしまうのではなく、外に向かって開く窓をつくろう。そういう思いから窓づくりは始まった。

防犯を考えつつも木材をふんだんに使用することで暖かみのある窓を考えた。日本の大学生、コンゴのアカデックス小学校の先生、キンボンド地区の子供たち、みんなで窓を構成する部材を一つひとつ切り出し、それにそれぞれの国を代表する色を塗った。

それらを組み上げ、最初から最後まで自分たちの手でつくり上げた。ひとつの窓をみんなでつくる。窓をつくることで普段交流のない人と人のつながりも生まれた。

窓を開けた先にあるものは、窓を「開ける」ごとに変わる。開けた人にしかわからない景色が待っている。アカデックス小学校の児童、先生、そしてキンボンド地区の人たちにもその楽しみを味わってもらいたい。

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