June 17, 2020

対談|Gigon / Guyer(ギゴン/グイヤー)

アネット・ギゴン&マイク・グイヤー×貝島桃代、シモーナ・フェラーリ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)

ル・コルビュジエやマリオ・ボッタ、ピーター・ズントーなどの多くの建築家を輩出し、豊かな自然と文化的多様性のなかで独自の建築文化を発展させてきた国、スイス。
建築家・貝島桃代氏の主宰する「建築のふるまい学」研究室(スイス連邦工科大学チューリッヒ校/ETHZ)では、こうしたスイスを拠点に活躍する建築家たちに「窓」をテーマとした連続インタビューを行っている。

第一回は同じくETHZで教授を務める、アネット・ギゴン/マイク・グイヤー アーキテクツ。1989年の結成後、《キルヒナー美術館》を始めとする美術館の設計で国際的な賞賛を受け、近年ではチューリッヒの《プライム・タワー》などの高層建築を相次いで完成させるなど活動の場を広げている。貝島氏、同スタジオ助手のシモーナ・フェラーリ氏が、窓の設計プロセスとそれを支える思想について、チューリッヒのスタジオで二人に話を聞いた。

 

──私たちのスタジオでは、2018年春にスイス各地の窓を調査し、とても興味深い結果が得られました。スイスは国土がそれほど広くない一方、気候風土もさまざまで、隣接する国によって文化も異なります。こうした地域性が、窓まわりの意匠にことごとく反映されているんですね。
では建築家が窓をデザインするとどうなるか、建築家は何を拠り所にして窓をデザインするのか、というのが次のテーマです。以前、私たちのスタジオのゲストクリティークを務めてくださったお二人には、実務経験を積むなかでご自身の窓観がどう変わったかを、スイス建築で現在求められている環境・エネルギー問題と絡めてお話しいただければと思っています。

アネット・ギゴン(以下:ギゴン) たしかに、昔から窓にはこだわってきました。窓があるがゆえに人は室内を覗き込み、室内から窓外を眺めるのです。窓は“建物の目”ともいえましょう──ちなみに、英語のwindow(窓)の語源は、“wind-eye”(風の目)です。

スイスでは、1970年代のオイルショック以降、建物をしっかり断熱して省エネを図るという意識が根づきました。また、ガラスとサッシュの技術開発もここ数十年で一挙に進みました。二重(ダブル)ガラスが登場し、まずは中空層にガスを封入した複層ガラスが、そして三重(トリプル)ガラスが開発されました。さらにガラスとサッシュの熱伝導率が下がったので、私たちは開口面積を目一杯大きくとるようになりました。要するに、エネルギー効率の問題と、建物を開け放ち風景を取り込もうとする願望の兼ね合いですね。

──これまでの30年以上のキャリアの中で、じつに種々様々のビルディングタイプを手がけていらっしゃいます。実績を積むにつれて、しだいに大規模な集合住宅や高層オフィス、チューリッヒではプライム・タワーやオイローパアレーのオフィスビルといった都市開発に携わるまでになられましたが、まずは初期作の住宅について伺えますか。

マイク・グイヤー(以下:グイヤー) 窓のデザインは毎回、壁との関係で決めていきます。たとえば《チューリッヒの住宅》(1994)の外壁は断熱レンガを積んでいるので分厚く、大きな開口をとれません。したがって必然的に窓は縦長で小ぶりになり、その位置も限定されます。この種の窓を、昔は付近の農家によく見かけたものです。この窓枠は昔ながらの木製で、これを室内側で壁と面一に納め、やはり木製の鎧戸を窓枠に収納しています。

ギゴン ここは農村部の指定保護地区ですから、おのずと厳しい建築基準が課せられました。屋根勾配まで具体的に指定されるほどでした。これについては、正攻法ではなく少し視点をずらして対処しました。上階の窓では伝統的な農家を意識しつつも、1階ではあえてフランス窓にしています。また、鎧戸を折り畳んで窓枠に収納する方式は、むしろ町家によくみられるものです。

  • 《チューリッヒの住宅》(1994)
    © Christian Kerez, Zurich
  • 《チューリッヒの住宅》(1994)
    © Christian Kerez, Zurich

グイヤー 一方、《ブロエルブルクの集合住宅 Ⅰ》(1996)の場合はまた状況が異なります。本来はマナー・ハウス(領主館)を取り囲む広大な草地だったところを、その緑を保存しつつ再開発するというものですので、ここでは窓を大きくとりました。これも窓枠は木製ですが、この窓枠の外側にガラスを被せるという変則的なことをしています。ところがそうすると予算を超過してしまうので、代わりに外壁を低廉な組積造にするとか外断熱を採用するなどしてコストを相殺しています。

ギゴン 外壁については、外向きの面を焦げ茶色に統一しながらも、内向きの面を鮮やかなオレンジ色に仕上げました。この二色を下地が透けて見えるほどに薄く塗ることで、鉱物質とはまた違った、柔らかく“有機的”な壁の質感を出しています。ここでの窓は外壁にはめ込まれた宝石のような存在と言えるかもしれません。

  • 《ブロエルブルクの集合住宅 Ⅰ》(1996)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich

グイヤー 見付けの太いアルミサッシュには日除けも格納されています。

ギゴン 既存の窓をヒントにしながらも、窓枠の見付けをより太く強調することで額縁風に仕立てました。こうして手前の緑から池の向こうまでの景色が切り取られることで、絵画のように見えます。

グイヤー それからどの住戸にも、ダイニングキッチンとひと続きになったかなり広い居間があるので、比較的自由に窓割りを決められました。

ギゴン ここには一種のウィンター・ガーデンというかガラス張りのロッジアもあります。このバッファーゾーンには暖房は入りませんが、断熱窓を二重に入れています。

──冬の厳しい寒さのなかで、高級な材料を使って窓をつくるということは、開放感をもたらすとともに、建築にとって宝石をつけるような意味合いがありますね。

  • 《ブロエルブルクの集合住宅 Ⅰ》(1996)
    © Harald F. Müller, Singen, Germany

グイヤー ところでブルーノ・ライヒリンの論稿「水平連窓の是非をめぐるペレとル・コルビュジエの論争」(The Pros and Cons of the Horizontal Window. The Perret- Le Corbusier Controversy、1984)をご存じですか。著者は、ル・コルビュジエがジュネーヴのレマン湖畔に建てた《母の家》の水平連窓を念頭に、水平・垂直窓について語っています。
第二次世界大戦の戦後復興期に入ったヨーロッパでは、それこそ立面を近代建築の諸原則に従わせるべきか否かを巡って侃々諤々の議論が繰り広げられました。その諸原則もいまやすっかり影響力を失い、むしろ個々の建物のDNA──それぞれの立地や思想のみならず工法──がデザインの方向性を定めています。

──たしかに窓は壁と不可分です。私たちはどうしても窓単体に目を向けがちですが、建物の構造やコンテクストを視野に入れなくてはいけませんね。

ギゴン そう、いちばん肝心なのは構造で、ふつうはその“対極”にあるのが窓です。ところが《キルヒナー美術館》(1992)では、躯体であるスティール製の支柱に直接ガラスを載せています。かようにスティールの加工精度が高ければ、この両部材(窓枠と支柱)を一体化できる。もちろん、よほど条件が揃わないと無理ですが。

  • 《キルヒナー美術館》(1992)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich
  • 《キルヒナー美術館》(1992)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich

グイヤー 一方、チューリッヒ郊外の線路脇に建てた《シグナル・ボックス》(1999)では、コンクリートの外壁を中空壁にすることで断熱層を設けています。ここでは窓を強調したかったので、窓をこの外壁と面一に納めました。さらにその窓を二重にしてバッファーを確保し、かつ外側を合わせガラスにすることで断熱効果を高めています。

ギゴン 外側の層に気密性はありませんが、陽射しと風を遮ることはできますから、内側のブラインドが強風に煽られる心配はありません。遮光はこの建物に限らず美術館建築にとっても欠かせない機能なので、《ヴィンタートゥーア美術館増築》(1995)でもこの手法を用いました。最終的には、外側の防風ガラスの内側に遮光ブラインドと断熱ガラスを入れて、都合三層にしています。

  • 《シグナル・ボックス》(1999)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich
  • 《シグナル・ボックス》(1999)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich

グイヤー この工法ですと、外側と室内側とで窓の大きさを変えられるんです。基本的には室内側の窓を外側よりも小さくしておいて、この一式で外装を兼ねてしまう。窓がそのまま建物の外形に組み込まれるわけです。

ギゴン しかもガラス越しに──見ようによっては美しい──その構造を目の当たりにすることができます。キルヒナー美術館の場合もこれと同様の原理で、エッチングガラス壁越しに断熱材がちらりと見えます。これはある意味で、自分たちが現場で学びながら建ててゆくプロセスに、見る人を巻き込むことでもあります。
私たちがETHZに在学していた1980年代当時は、建物の推奨断熱厚みの数値は今よりずっと低く、けれどもそれに関してはその時分から懐疑的な声が上がっていました。それで私たちは、断熱層をしっかり確保するようにしてきました。

  • 《ヴィンタートゥーア美術館増築》(1995)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich

──そもそもなぜ、レイヤーを重ねるという発想になったのですか。単に、物量で断熱性を確保するという話なのでしょうか。

グイヤー スイスの現行法で、断熱ガラスの使用および遮光は義務化されています。これが大原則で、それ以外はすべて補助的なものにすぎません。

ギゴン レイヤーを重ねるという発想には、伝統回帰という側面もあって、これは20世紀初頭あたりに出回った窓のデザインにちなむものです。当時は冬になると、“前窓”(独:Vorfenster)と呼ばれる外窓を外壁と面一に取りつけ、夏場は取り外して屋根裏にしまっていました。私が子どもの頃の話ですが、今でも古い町家に残っていますよ。この外窓を取り付けると外壁ときれいに一体化し、その薄い窓ガラスに美しく光がゆらめきます。

  • “前窓”と呼ばれるチューリッヒの歴史的な町家の窓
    © Gigon / Guyer, Zurich

私たちは贅沢にも、こうした特注の二重窓を使うことができましたが、それも必要な総数が限られていたからです。ヴィンタートゥーア美術館では、特注窓を使用したのは3箇所のみです。それ以外の外壁面は基本的に閉じて、採光はノコギリ屋根のトップライトから行います。それだけに、この特注窓は貴重な要素です。館内の見学順路は全9室にまたがっていますから、この窓がなければ見学者は途中で外の景色も眺められないし、方向感覚も失ってしまう。ただしコスト面では、外側のレイヤーも内側のレイヤーと同程度にかかるので、住宅には向きません。

  • 《ヴィンタートゥーア美術館増築》(1995)
    © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich

シグナル・ボックスもやはり窓の数自体は少ないですが、線路を見張るという象徴的な意味がそこには込められています。こちらは外側のガラスに赤銅色の遮光フィルムを貼り、そうすることでコンクリート壁面の酸化鉄系顔料──これは鉄道操車場の錆と同じものですが──に馴染ませています。ちょうど窓がふたつあるのでサングラスをかけているように見えるでしょう? 今では鉄道の信号・転轍機も遠隔制御される時代になりましたが、私たちは信号所本来の監視機能をあえて表現として残したかったのです。

グイヤー ここまでお話しした建物はいずれも比較的規模が小さく、壁面の大部分がソリッドです。ところがオフィスビルとなると、当然ながらこのやり方では通用しません。
極端な例がチューリッヒの《プライム・タワー》(2011)です。ファサードがなにしろ薄く──非常に高性能なそのカーテンウォールは三層構造で、そのなかに種々の遮光コーティングを施したガラスが5枚仕込まれています。またこれほど高層だとさすがにヴェネチアン・ブラインドは風に煽られてしまうので露出させられません。
当初のコンペ案ではファサードを二層にし、窓を開閉式にするつもりでしたが、コストとメンテナンス、そしてエネルギー効率を理由にこれは諦めました。

  • 《プライム・タワー》(2011)
    © Thies Wachter, Zurich

ギゴン 幸いにもこの二層式については、チューリッヒの《ラーガー通りのオフィス・ビルディング、オイローパアレー》(2013)で実現できました。具体的には、外側のレイヤーを遮光スクリーンに見立て、これを金属製のメッシュで製作しています。これなら日射量が25%軽減されるばかりか、屋内からの視線を遮らずに済みます。室内側の断熱ガラスとの間には、保守点検作業が可能な程度に奥行きをもたせ、ブラインドも吊るしています。
これと同時進行していた《ロールシャッハのヴォート・ビルディング》(2013)も同じ路線です。そちらでは外側のスクリーンが、一方では湖からの風を、他方では街路の騒音を遮ります。

  • 《ラーガー通りのオフィス・ビルディング、オイローパアレー》(2013)
    © Stefan Müller, Berlin

──どのプロジェクトの窓にも工夫が凝らされ、そのときどきの社会のありようが反映されていて、興味深いですね。こうしたアイデアは設計チームから出てくるのでしょうか。それとも予めメーカーなりエンジニアなり、専門家にヒントをもらうのでしょうか。

ギゴン たいていは自分たちの思いつきから始め、具体的な方法を検討、発展させ、試す段になったら、メーカーや職人の手を借ります。例えばさきの遮光メッシュの場合、アイデアは1990年代初頭から温めてきたもので、実際にコンペ案にも幾度か採用しましたが、あいにくその当時は技術的に不可能でした。最終的に、アルミコーティングされたポリエステルメッシュならば、好みの色味に染められることが判明しました。
それからお察しのとおり、このテキスタイルで覆うという発想は、ミース・ファン・デル・ローエの《フリードリヒ街のオフィスビル》完成予想図に描かれた、あのドレープを思わせる“カーテンウォール”の一つの解釈でもあります。

  • 《ロールシャッハのヴォート・ビルディング》(2013)
    © Thies Wachter, Zurich

グイヤー 行政側にはたいてい、確認申請のためにモックアップを提出することになります。いくら部分的なものとはいえ実物ですから、施主にとってはばかにならない出費になります。実現の見込みがなければ、さしもの施主も投資してくれませんから、こちらとしてはメーカーの手を借りてでも実施設計に漕ぎ着けなくてはなりません。学内のプロジェクトとは勝手が違いますからね。もしこれがETHZの建築技術研究所(ITA)ならば、研究として潤沢な資金を用いて、構造計算や実大プロトタイプ制作に手間をかけられますが。

ギゴン それこそ《レーヴェンブロイ・エリアの高層住宅》(2014)では、これまで手がけた中でも最先端のハイテク窓を採用しました。

グイヤー 車庫の跳ね上げ戸と同様の、小型モーターつきの電動開閉式の窓です。ここでは例のウィンター・ガーデン案を復活させるかたちで、ガラスの内窓側にバッファーゾーンを設けるようにしています。
ただしこれを設置するか否かは各購入者の判断に委ねました。むしろ床面積にシビアになりがちな分譲式だからこそ、屋内にも屋外にもなるようなフレキシブルな空間が求められるような気がします。とはいえ、もし施主がローテクな方法を望むなら、それ相応の方法を考えます。

  • 《レーヴェンブロイ・エリアの高層住宅》(2014)
    © Thies Wachter, Zurich

──スイス全体でみると、ガラスを用いた建物は増加の一途にあります。ガラスの価格が下がっているのもその要因でしょう。が、いくら建設費が下がろうが、どうしても冷暖房費などのランニングコストがかかります。そのあたりはどう折り合いをつけますか。

グイヤー ガラス壁よりもソリッドな壁のほうが概して工費──そして維持費──は安く上がります。ただし費用対効果となると、不透明な部分も多くて。仮に高層ビルであれば、ガラス壁が薄いと、そのぶん賃貸面積は広くなって開口率は上がり、レンタブル比の観点からは望ましいものとなります。

ギゴン 集合住宅のファサードであれば、コストを抑える必要から、開口面積を減らして外壁工事費を下げます。ところがオフィスビルとなると、ビルの顔ともいえるファサードにコストをかけるので、そのぶん内装のコストを切り詰めねばならず、結果的に追加の内装費用をテナントに負担してもらうことになります。

グイヤー 建物の外殻に関しては、私たちの現状の知識の範囲内で極力ローテクにします。昨今はやたらとメカニックな装置が用いられますが、それもどうでしょうね。たしかにプライム・タワーは、あれはあれで勉強になりましたが、たとえば《チューリッヒ エルリコンのアンドレアス・タワー》(2018)のように、ファサードが二重になっていたとしても、わざわざ窓を自動開閉式にする必要はない。人の手で窓を開ければ済むことですし、もしそれで閉め忘れたとしても一晩くらいどうということはないでしょう。

  • 《チューリッヒ エルリコンのアンドレアス・タワー》(2018)
    © Roman Keller, Zurich

さらにこのごろは賃貸オフィスといえども、窓がなく強制換気が必要なようだとテナントが入らないのです。現在では、空調システムは以前とは比較にならないほど安定しています。かつては窓を開けると空調の効きが悪くなることもありましたが。

いま世間の関心はもっぱら、いかに夏場に熱がこもらないようにするか、どんな素材を用いて、いかに電力消費を抑えるかに向けられています。では、私たち建築家はこれにどう応えるか。ガラスの場合はせいぜい三重にするのが限界で、それを超えるとガラス製造に相応のエネルギーが費やされてしまう。そうすると、より省エネな素材、たとえばテキスタイルなり木製の多孔板なりをどうにかして外側に追加するしかありません。
要するに、建物ひとつに必要な建材の製造と輸送、そして最終的にはリサイクルにかかる内包エネルギーの総量が問題になってくるのです。私たちなら、窓枠はアルミ製ではなく木製にするでしょうね。

ギゴン こうした問題を気にし始めるときりがないんですが、いずれにせよ現時点ではこうしたことの正否を判断するだけのデータとツールが揃っていません──建物のライフサイクルとの関係を考えると尚更です。ただし、アルミやスティールの内包エネルギーについても、もし耐用年数が60年あれば気にするほどではありません。あるいは木製の窓枠でも、寸法が大きかったり外気にさらされたり、はたまた用途によっては強度と耐久性を欠きます。どのみち断熱ガラスの寿命はせいぜい30年しかありません。

──もしこの先、ローテク路線をとるとすれば、どのような状況が考えられるでしょうか?

ギゴン むしろ、ハイテクとローテクを目的に応じて使い分けられるようにしたいですね。太陽光発電装置を設置してもいいし、逆に《クラリデン通り35番地のオフィス・ビルディング》(2018)のように、単純な手動開閉式の換気孔にパンチングメタル製の“ダクト”を被せることもできる。例のごとくガラス張りのロッジアを設けてもいいでしょう。ちなみにこれはウィンター・ガーデンというよりは“衣替えのできる部屋”、つまり冬場に限らず夏場の使用も想定したものです。スイスの場合、ふつうのバルコニーだと年間の半分しか使用できませんから。

  • 《クラリデン通り35番地のオフィス・ビルディング》(2018)
    © Roman Keller, Zurich

グイヤー レイヤーを重ねることで、立面の構築性が薄れます。それでも構築性を強調するなら、外側にもう一枚壁を建ててそこに開口を穿ったところへガラス張りのバルコニーなりを挿入すればいいのです。そのあたりの判断は、目指す表現によって変わります。

──レイヤーになっているということは、すなわち住人自身の手で照度・温度を調節する余地があるということですから、なるほど居住性も高まりますね。本日はたいへん貴重なお話を、どうもありがとうございました。

 

アネット・ギゴン/マイク・グイヤー・アーキテクツ
1989年に共同でギゴン/グイヤーを設立。開所まもなく、ダヴォスの《キルヒナー美術館》(1992)、《ヴィンタートゥーア美術館増築》(1995)、《アッペンツェル美術館》(1998)、ドイツの《カルクリーゼ考古学博物館と公園》(2002)などを手がけ、国際的に注目を浴びる。美術・博物館の設計を中心に、近年は業務を拡大し、集合住宅や、チューリッヒの高層オフィス《プライム・タワー》(2011)や《ロールシャッハのヴォート・ビルディング》(2013)などのオフィスビルの設計に従事。スイス連邦工科大学(EPF)ローザンヌ校(2001-02)ならびに同(ETH)チューリッヒ校(2008-09)の客員教授、2012年より同チューリッヒ校教授。ドイツのフリッツ・シューマッハ賞、英国建築家協会(RIBA)国際フェローシップ、スイス国内有数の建築賞 デイライト賞など、国内外にて受賞歴多数。

貝島桃代
2017年よりスイス連邦工科大学(ETH)チューリッヒ校「建築のふるまい学」教授。日本女子大学卒業後、1992年に塚本由晴とアトリエ・ワンを設立し、2000年に東京工業大学大学院博士課程満期退学。2009年より筑波大学准教授。ハーヴァード大学デザイン大学院(GSD)(2003、2016)、ライス大学(2014-15)、デルフト工科大学(2015-16)、コロンビア大学(2017)にて教鞭を執る。住宅、公共建築、駅前広場の設計に携わるかたわら、精力的に都市調査を進め、著書『メイド・イン・トーキョー』『ペット・アーキテクチャー・ガイドブック』にまとめる。第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館キュレーター。

シモーナ・フェラーリ
建築家・アーティスト。2017年よりスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)「建築のふるまい学」研究助手として指導にあたる。ミラノ工科大学、ウィーン工科大学、東京工業大学(外国人特別研究員)にて建築を学ぶ。2014年から17年までアトリエ・ワンの国外プロジェクトを担当。チューリッヒ芸術大学美術学修士課程在学。「ユーロパン 15」(2019)コンペ勝利にともない、現在は伊ヴェルバニアのアセターティ社工場跡にてプロジェクト(メタクシア・マルカキと共同)を進行中。

Top image:《キルヒナー美術館》(1992) © Heinrich Helfenstein, gta Archiv / ETH Zurich