WINDOW RESEARCH INSTITUTE

記事

成瀬友梨・猪熊純 窓とシェア/前編

成瀬友梨・猪熊純/成瀬・猪熊建築設計事務所 (建築家)

24 May 2013

Keywords
Architecture
Conversations
Interviews

ふたりが考える2つを繋ぐ関係性

「シェア」をテーマにプロジェクトを発表し、注目されている建築家、成瀬友梨・猪熊純へのインタビュー。「シェア」から考える「窓」の役割や魅力、課題について伺った。

“窓辺”が「シェアスペース」を居心地良くしてくれる

猪熊 シェアハウスみたいな設計ってたぶん、今までもあったと思うんですよね。例えば妹島さんの再春館の寮とかって、実は両側に個室が並んでいて、真ん中が巨大なリビングのような場所になっていて、プラン的には完全にシェアハウスのはしりだと思うんです。当時、建築の我々はすごくワクワクして、これはすごい!なんてラディカルなことをやる人なんだ、ってビックリしたんです。でもディベロッパーが、じゃあ賃貸住宅の変わりにそれやってみようっていうふうにはならなかったわけですよね。 ところが、10年とか15年経ったら、同じ形式でほぼ運営まで成立するものが建築側じゃないところから出始めて、シェアハウスっていう名前にもうなっていた。あいだの空間を作っていこうっていう考え方自体は、建築の人間としてはある種の問題意識として妹島さんの頃からあったはずのことが、「シェア」という言葉を使うと、うまく建築の外側の人に届くんだなということを、その時知ったというか。シェアという言葉は、自分たちが設計でやりたいと思っているパブリックとプライベートの間、あるいは人と人の間っていうことを、うまく建築の外側の人に届けるのにすごくいい言葉だなと思ったのです。

さらに、都市の中に埋め込まれるちょっと公共的な場や、カフェや、オフィスなどの中にも、シェアという言葉でくくった時に見えてくる新しいライフスタイルがあって、それを空間によってどう可能性を開いてゆくかにとても興味があります。

共用部って作るのを失敗すると誰も出て来ないんですよね。そもそも個室の方にいる時間が長くなってしまう。場所の性質を決めるときに、安易に考えると、プライベートな場所が一人でいる場所で、パブリックな場所がみんなで集まる場所って思ってしまうんですけども、パブリックな場所で一人でいるっていうことが結構心地良かったりするじゃないですか。広いリビングに出て来て、ただ一人で本を読んでいるだけとか、まったりお茶を飲んでいるだけとか。ちょっと離れたところに別な人たちが出て来ていて数人で談笑しているけれど、別にそこに加わるでもなくみたいなことって、たぶんたくさんあると思うんですよね。むしろ共用部に出て来たら全員参加しているなんていうのは、イベントの時ぐらいだと思うんです。でも、設計する時って、ともするとパブリックな部分っていうのはみんなで集まる場所って勝手にそう思ってしまうところがあって。そうならないように常日頃から心掛けているんです。

窓ってやっぱり、そういう設計をする時に特別で、窓辺って、一人のおちついた居場所になりやすい。窓があって椅子が一個あったら、そこにいる風景って一人でいても他からちょっと独立した小さな空間として成立しやすかったりする。それはたぶん、外との世界と一緒になって時間を過ごしているようなことかもしれないんですけれども。そんな時にやっぱり、窓の力は偉大だなと思うことが多いです。 例えば大きいリノベーションで、あまり窓が作れないような場所が共用部になってしまうと、そこで一人の場所を作るのが結構大変なんですよ。でも新築だったりすると、窓辺らしさみたいなものを強調する方向に設計をしておいて、家具はポンって置いておくだけで、一人でも落ち着ける感じは作れてしまう。カフェなんかでもよくありますけど、窓際にカウンターを作っておくと、そこは一人でもいい。あれは、窓に近接しているからこそできるというか。まあ外を見ながら一人でそこに座っていたら、一人でいさせてくれって言っているサインじゃないですか。だから、それって結構大事なことだと思っていて。そういう場をちゃんとしつらえていくために、窓の位置とか、大きさは意識しますね。

“窓越しに”街から中がどう見えるのかも大切

成瀬 人と共有する空間って、例えばシェアハウスだと、その仲間内で閉じてしまうと、そこは仲良くていいんだけど、そこと外とはどう繋がるのかみたいな観点もある気がします。場合によっては外から見ると気持ち悪い場所になったりする。そういうのって実は、意外と煮詰まっちゃって続かなくなることもあるのかなと思っていて。外とどのように繋がるかということのデザインは、豊かなシェアのスペースを続けていくためには結構重要なのかなと思っているんです。

その時に、窓ってすごい大事だなと思っていて。窓がすごく中に入りやすい感じとか、中の雰囲気が溢れ出る感じとか、そういうのは実は、とても大事なんじゃないかと。運営する人はすごく頑張って、例えば建物が多少魅力的じゃなくても人がたくさん来るような場所って作れると思うんですけど、でもより自然に人が入ったり出たりすることができるような場所にするためには、窓がどういうところに開いていて、どれぐらいの大きさで開いていて、中がどういうふうに見えるのかなとか、とっても大事だと思いますね。だからそういう意味で窓はすごく大事。キーになるかなって思います。

猪熊 僕らは、やっぱり街の風景を作る要素として、窓が結構大きい要素を占めているなということは常々思っていて。単純に窓の形とか大きさ自体もそうですし、成瀬が言ったようにその中に何が見えているかっていうことが大事だと思っていて。下手にやると単なるプライバシーの露出になってしまうところを、うまくやれば、夕暮れ時に楽しそうに家族団欒しているところがほんのり伝わってきたり、それはきっといい街だと思います。生き生きした街の空間を作っていくために、敷地の内側に立っているものが、どういうふうに街に映るかというか、見えてくるかということはすごく大事だと思いますね。

窓が無いような家がズラッと100戸並んでいたら、やっぱりちょっとつらいと思うんですよね。それは街区が死んでしまうというか。そこになにか繋がりを作ることが、街にとって大切なのではないかと思います。

あと、ファサードとして考えた時にも、街中だと法規制が決まっていて全部同じ高さになったりする中で、スカイラインよりも窓の開き方のほうが実は風景を作ったりする。そういう意味では、窓がどう開いているかとか、隣同士とか建物が10戸並んだ時の窓はどうなっていくのかが、きちんとデザインできると、たぶん楽しい街並みというか生き生きした街並みを作っていくことに結構効くだろうと思っています。そこと中の使い方との調整役として、かなりきちんとした設計が必要な部分だと思いますね。

中と外の調整で気遣うことっていうと、明らかに中が見えてしまうようなぐらい大きい窓を作る時は、まったくそれが見えないようにするか、あるいは空間の作り方とセットで、見えていることが分かるような空間の構成をしておく。大きく見られている場所は背中にならないようにしてます。見られているのが分からないまま見られている状態にしない。外から見えることに対して意識的に振る舞える状況というか、外と中の両方の人にとって了解できる大きさを選ぶ。それが失敗すると、結局カーテンが閉められ、だんだん塞がれていくことになってしまいます。部屋の空間的な広がりとの関係も大切にしていて、単に窓の大きさというよりは、室内の深さとか、天井の高さとか、そういうものとすごく綿密に関連して作っている気がしますね。奥行が深ければ大きい窓でもいいかとか、そういうことはよく考えます。

開けたいときに目いっぱい開けられる“窓”が好き

猪熊 視覚的な要素以外にも、いかに風が抜けるかっていうのは、やっぱり建物の心地良さを作ると思うので、そこは大事にしますね。いい建物は風が気持ちいいっていうのは、学生の頃とかに先生のどなたかに言われて、それがすごく残っています。 風景を切り取ることをすごく大事にすると、窓ってフィックスになるじゃないですか。換気用の窓は隣に最低限にとったりすると思うんですけれども。僕らは実はあんまりそういうことをしないタイプで、多少野暮ったくなっても大きくあけられるようにすることが多いです。窓が外と繋ぐ装置になっている時に、大きく開けて風を入れたり出入りが出来たりということも全部一体的に感じ取れることが好きというか。本能的なというか、身体的な喜びとして、気持ちのいい時はあそこ全開にしようっていうその気持ち良さも好きで。

成瀬 今作っている中庭のある家でも、中庭に対してすごく大きく開口部を取っていて。ほんとは、そこの景色をすごく楽しむためだったら、大きなフィックスのガラスでやったらきれいなんでしょうけど。でも全部開けるよね(笑)。風も人も棟から棟に歩いて行けてみたいな、全部繋がっている感じにしているよね。

あと例えば、今桜が咲いていたとすると、それがすごくよく見えるところで、そこが開いたら匂いとかも香ってきて、季節もすごく感じると思うので。そういう意味では、そこが一致しているっていうのは、あんまり意識していなかったけどそうしているんですね。(笑) 住んでいる人が調整できる要素としては、窓は一番大きい建築的な部位だと思うんです。柱も壁も天井も床も、工事をしないと変えられない要素ばっかりだと思いますけど。窓は、家具より明らかに大きくて、住んでいる人が勝手に動かせるものじゃないですか。それを羽目殺していく方向よりは、生き生きと使いこなしてほしいというか、そういう動かせる部分が大きい家っていいなと思うんですよね。住んでいる人が自分の住み方に合わせて、家を使いこなしていくきっかけにもなるというか、そういう窓の意識はあります。開けたい時はもう目いっぱい開けられるっていうのは一番分かりやすい例なんですけど。そういう視点で窓を見ているというか、そうであってほしいというような、そういう感覚はありますね。

こんな“窓”がほしい

猪熊 壁がそのまま開くっていうのが気軽にできるといい。外壁と同じものがパカッと開くっていうことが、もうちょっと日頃やりやすくなったらいいなと思う。ただ、それって防火の話とか、仕上げも建築によって全部違うので、量産をされているメーカーさんが商品として作れることではない気もするんですけども。理想として、そのフラッシュのものに、何か外壁と同じようなものを張り付けておくことで、それが開くっていうものができたら、ほんとは楽しいなと思うことはありますね。

成瀬 私は、もっと普通の意見になりますけど(笑)。折戸がね、好きなんですよね。ワーッて開けられて、引戸よりも軽いし。だけど、枠が太い(笑)。

猪熊 確かに。 繊細な折戸があったらいいかも。

成瀬 カフェとかで、折戸を入れたいよねって話になる時に、冬とかあれがこう出てきてね、やっぱり閉めている時に邪魔だからやめようかな、みたいなことを言う人は結構多いんですよ。難しいことだと思うんですけど、折戸を閉まっている時にもっと繊細にできたら、もっと部屋が外と一体に繋がるってことが気軽にできるなっていつも思っていて。

猪熊 やっぱり断熱性能の制限が高くなっていて、20年前のサッシとかに比べて若干ごつくなっているじゃないですか。あれが、昔のみたいに細くなったらいいなと思うことはたまにありますよ。まあ、難しいとは思うんですけど。
(後編はこちら)

 

 

猪熊純/Jun Inokuma 
建築家。首都大学東京助教。1977年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。同年千葉学建築計画事務所勤務。 2007年より成瀬・猪熊建築設計事務所共同主催。2008年より首都大学東京助教。

成瀬友梨/Yuri Naruse 
建築家。東京大学助教。1979年生まれ。東京大学大学院博士課程を単位取得退学。成瀬友梨建築設計事務所を経て、2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。2009年より東京大学特任助教。2010年より同助教。

成瀬・猪熊建築設計事務所 
建築はもとより、プロダクトからランドスケープ、まちづくりまで、様々なデザインを行う。近年では、場所のシェアの研究を行い、新しい運営と一体的に空間を作ることを実践。コワーキングスペース・シェアハウス・コミュニティカフェなどを設計中。HOUSE VISION TOKYO EXHIBITION 2013に出展。陸前高田でまちのリビングプロジェクト進行中。 INTERNATIONAL ARCHITECTURE AWARDS 2009 、DESIGN FOR ASIA AWARDS 2009 Merit Recognition、グッドデザイン賞2007 など、受賞多数 www.narukuma.com/

RELATED ARTICLES

NEW ARTICLES