Grant Results 2023年度 採択テーマ CCA-WRI Research Fellowship
The Under- and Overground Built Environments of the Soviet-German Uranium Mining Corporation Wismut
静かなる国家――ソ連・東独ウラン採掘公社ヴィスマットの地上と地下の建築環境
31 Mar 2025
- Keywords
- Architecture
- CCA-WRI
公益財団法人 窓研究所は、カナダ建築センター(Canadian Centre for Architecture)と共同でフェローシップ・プログラム「CCA-WRI Research Fellowship」を実施しています。本記事は、2023年度リサーチフェローのひとりであるオクサナ・グリノヴィッチ氏の研究テーマを紹介するものです。
研究テーマ概要
本研究は、冷戦初期にドイツ東部で展開されたソ連=東ドイツ共同出資企業「ヴィスマット(Wismut AG)」によるウラン採掘事業をめぐる空間の歴史とその影響を考察するものである。ソ連の地質学者が旧銀鉱山からウラン鉱石を発見したことをきっかけに、この地域は核開発を支える大規模な資源採掘の拠点となった。これにより新たに成立した東ドイツ(GDR)は、ソ連の核計画を支える主要なウラン供給国、そして世界有数のウラン鉱産出国となる。
Wismut社は、鉱石の採掘・輸送・精錬に加え、労働者の住まいや消費、教育、文化、スポーツ、医療などを一手に担う、まさに「国家の中の国家」として機能した。1950年代には13万人もの労働者を抱え、東ドイツ本国の医療制度を上回る独自の体制を築いた。その一方で、軍事的な秘密保持のもと地域社会と空間的に密接に関わり続けたことで、地元の社会環境には大きな負荷がかかることとなった。
本研究では、40年にわたる採掘事業によって生じた空間変容の過程とその痕跡を追い、社会主義体制下の空間構築をグローバルな文脈で位置づけ直す。そこでは、資本主義/非資本主義といった二項対立を超えて、環境正義と社会的正義のあり方を問い直す視点を提示する。Wismutが遺した地上と地下の建築環境は、冷戦期の東西を問わず、資源採掘の工業化がいかに空間の思考と実践をかたちづくったかを考えるうえで、普遍性と特殊性を併せ持つ事例である。
なお、本研究は2022年のモントリオール滞在中、カナダ建築センター(CCA)での調査を通じて、Wismutと同時期にカナダ・オンタリオ州およびサスカチュワン州で操業していたウラン採掘企業エルドラド社(Eldorado Ltd.)との比較も試みた。両者の活動は、植民地主義的条件のもとで進められ、ドイツ東部における「逆向きの文化的植民地主義」、カナダにおける入植者植民地主義として、それぞれ西洋の一般的な植民地理解とは異なる位相を持っていたことが明らかになってきている。また、近代における地下空間の設計思想や、アーカイブの可視性に関する考察も、研究上の新たな焦点となっている。
さらに、CCAのアーカイブに収められていたヴァン・ギンケル・アソシエイツやセドリック・プライスの資料群を通じて、「非定住型都市計画」に関する資料に出会ったことが、現在の研究における新たな展開のきっかけとなっている。
『Energy Always: 2023 CCA-WRI Research Symposium』(2023年8月10日、モントリオール)記録映像より
オクサナ・グリノヴィッチ/Oxana Gourinovitch
建築家、キュレーター、建築史家。ベルリン芸術大学で建築修士号(2005年)、ベルリン工科大学で博士号(2020年)を取得。ベルリン、ロッテルダム、アムステルダムの設計事務所に勤務した後、ベルリン工科大学およびアーヘン工科大学で教鞭を執り、モントリオールのカナダ建築センター(CCA)では窓研究所との共同フェローを務めた。国家社会主義体制下の空間と、その地政学的変容との関係に関心を持ち、これまでにドイツ研究振興協会(DFG)、マレ・バルティクム財団、グラハム財団などの支援を受けて研究を行ってきた。現在、チューリッヒ工科大学にてエゴン・アイアーマン・フェローとして在籍中。
