Grant Results 2023年度 採択テーマ CCA-WRI Research Fellowship
Earth-Shelter Builders and the Code
アース・シェルターの担い手たちと規範
31 Mar 2025
- Keywords
- Architecture
- Building code
- CCA-WRI
公益財団法人 窓研究所は、カナダ建築センター(Canadian Centre for Architecture)と共同でフェローシップ・プログラム「CCA-WRI Research Fellowship」を実施しています。本記事は、2023年度リサーチフェローのひとりであるアンドレア・アルベルト・ドゥット氏の研究テーマを紹介するものです。
研究テーマ概要
本研究は、大地とシェルターの関係をめぐる歴史的かつ理論的な調査の一環として、2023年より継続的に進められている。その中でも本研究は、1970年代初頭に北米を襲った石油危機への対応として注目された「地下建築」の潮流に焦点を当てる。
ここで「大地」は、建築の基礎としての「地面」ではなく、建物の外皮の一部として統合される有機的な素材と捉えられている。それは断熱性を高め、ガス消費の削減につながる。地下化は、自給自足と環境主義が結びついた手法として浮上し、カウンターカルチャー運動に根ざしながらアマチュアの実験精神によって推進された。
このアース・シェルター運動を牽引した人物たちは、ジョヴァンナ・ボラシとミルコ・ザルディニによってキュレーションされ、2007年から2008年にかけてカナダ建築センター(CCA)で開催された展覧会『Sorry, Out of Gas: Architecture’s Response to the 1973 Oil Crisis』によって広く紹介された。同展は、綿密な文献調査とインタビューを通じて1970年代初期の多様なアプローチに焦点を当て、運動の全体像を捉えるための重要な一歩となった。
初期の中心人物のひとりがマルコム・ウェルズである。環境建築と地下建築の分野で数々のベストセラーを著した建築家であり、彼は同時代の理論的・思想的基盤を築いた。ウェルズの活動は、2023年9月から2024年1月にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された『Emerging Ecologies: Architecture and the Rise of Environmentalism』展でも再評価された。私と共同研究者レオニー・ブンテは、2023年7月にケープ・コッドにてウェルズの遺族にインタビューを行ったが、その際の基礎資料となったのは、CCAの助成によって編纂された彼の全出版物および、ペンシルベニア大学に所蔵されている個人アーカイブである。
運動の理論的な礎を築いたウェルズに対し、アース・シェルターの科学的な体系化を進めたのは、1977年にミネソタ大学に設立されたアンダーグラウンド・スペース・センター(USC)である。創設者はレイモンド・スターリングとジョン・カーモディであった。USCのアーカイブ(現在はCCAに所蔵)からは、1995年の閉鎖までに同センターが展開した多様な活動をうかがい知ることができる。当初は住宅用アース・シェルターに焦点を当てていたが、1980年代には商業・教育施設を含む大規模な地下建築へと関心を広げた。
この動向は他国の研究機関にも見られ、USCが1978年に開始した「地下建築と工学」に関する年次会議の記録からも確認できる。USCの顕著な成果のひとつは、自然採光装置を組み込んだ建築部材の開発であり、それは建築家デイヴィッド・ベネットと共同設計したミネソタ大学土木工学棟において体現された。アース・シェルターの先駆者たちは、建築の基礎から上部構造に至るまで従来の手法に挑戦し、持続可能な構造原理を体現する独自の解法を提示した。
このような先駆的視点に立つアース・シェルター運動は、特にエネルギー効率に着目しつつ、地下生活に適応したライフスタイルの再構築を通して建築技術を見直すという、戦後初の包括的な試みと位置づけられる。建築部材の再構成においては、地中の質量と自然光を取り込む面(aero-illuminated surfaces)とのあいだで最適なバランスをいかに保つかが重要である。
土の質量は建物と地形を連結させ、周辺環境との調和を生む。一方で自然光が透過する面は、建物内部と外部をつなぐ界面として機能する。窓は、地中建築の「目」として、またさまざまな思想的立場が交錯し、しばしば建築基準と衝突する領域として、重要な建築要素となる。本研究は、アース・シェルターにおける「窓」の役割に注目し、それを文化と建築形式との関係性を読み解くうえでの象徴的かつ認識論的な鍵として位置づける。
『Underground Anxieties: 2023 CCA-WRI Research Symposium』(2023年8月10日、モントリオール)記録映像より
アンドレア・アルベルト・ドゥット/Andrea Alberto Dutto
アイダホ大学カレッジ・オブ・アート&アーキテクチャー建築学科 助教。2023年にはモントリオールのカナダ建築センターにて特別研究員を務め、2021年から2023年にかけてはアーヘン工科大学建築理論講座の助手として教育・研究に携わる。アーヘン工科大学とトリノ工科大学による共同プログラムで建築学の博士号を取得後、ヨーロッパ各地の大学や研究機関と連携し研究を継続。現在は、実験的なシェルターや、エネルギー危機および環境問題への応答として設計されたアース・シェルターおよびその類型の研究に注力している。
