WINDOW RESEARCH INSTITUTE

Grant Results 2022年度 採択テーマ CCA-WRI Research Fellowship

Working Skill Sets
労働のスキルセット

ジェシカ・ヴォーン

31 Mar 2025

Keywords
Architecture
Arts and Culture
CCA-WRI

公益財団法人 窓研究所は、カナダ建築センター(Canadian Centre for Architecture)と共同でフェローシップ・プログラム「CCA-WRI Research Fellowship」を実施しています。本記事は、2022年度リサーチフェローのひとりであるジェシカ・ヴォーン氏の研究テーマを紹介するものです。

 

 

研究テーマ概要

本研究は、ゴードン・マッタ=クラークによるサイトスペシフィックなインスタレーション作品における即興性と、その政治的・社会的含意について考察するものである。マッタ=クラークは建築そのものを作品の主題にしたわけではなく、建物の構造体に対する切断や分割といった即興的行為を通じて、空間の再構成と新たな風景の生成が行った。本研究では、これらのプロセスを単なる形式的実験としてではなく、制作の過程における「作家の労働」として捉える視点を提示する。

特に、カナダ建築センター(CCA)でのアーカイヴ調査および映像作品《Day’s End》《Conical Intersect》《Office Baroque》の分析を通じて、マッタ=クラークが解体予定の建築物に対して施した切断行為が、建築内部に光の通り道を生み出し、時間と光を媒介とした空間認識の再編をもたらしていることを明らかにする。彼の切断によって生じた枠組みは、照明器具のように光を受容・透過する構造となるが、より重要なのは、その光が常に「枠」を越えて拡散していく点にある。

また、マッタ=クラークの制作行為を「即興的労働」として捉えることで、資本主義社会における労働価値の可視化とその限界、さらには都市政策や不動産制度に対する批判的介入としての側面が浮かび上がる。作品《Fake Estates》は、不動産法や都市インフラをめぐる制度的な枠組みを実際に土地の取得というかたちで可視化し、それに対する芸術的実践(たとえばAnarchitectureの活動)を通じて、制度の枠外に生じる社会的・感情的空間を創出している。

本研究ではさらに、これらの分析を踏まえて、マッタ=クラークのアーカイヴ調査が現代における芸術実践に与える影響を検討する。具体的には、2023年にラインラント=ヴェストファーレン・クンストフェラインで開催された筆者の個展における光の立体作品、および同年のFrieze Art Fair(The Shed)で発表された《The Internet of Things》における空間・制度批判の視覚化が、それに該当する。後者の作品では、郵便制度や広告、セキュリティ印刷などのインフラ要素を再構成し、現代資本主義における情報・暴力・公共性の交錯する風景を提示している。

以上の考察を通じて、本研究はマッタ=クラークの芸術実践を、空間と制度に対する即興的かつ批判的介入として位置づけ、現代美術における「労働」「所有」「枠組み」といった概念の再考を試みるものである。

『2022 CCA-WRI Research Symposium』(2022年8月24日、モントリオール)記録映像より

ジェシカ・ヴォーン/Jessica Vaughn

現代社会の見過ごされた構造や感情の残滓に焦点を当て、空間、労働、制度的枠組みに対する即興的かつ批判的なアプローチで作品を制作。​ミニマリズムやコンセプチュアル・アートの伝統に影響を受け、既製の素材や廃棄物を用いた彫刻的実践を展開。​近年は、ゴードン・マッタ=クラークのアーカイブ研究を通じ、資本主義社会の建築や土地制度の「枠組み」への介入可能性を探求。​

カーネギー・メロン大学で美術と社会史を学び、ペンシルベニア大学で美術の修士号(MFA)を取得。​ホイットニー・インディペンデント・スタディ・プログラムおよびスコヒーガン・スクール・オブ・ペインティング・アンド・スカルプチャーに参加し、2024年から2025年にかけてハーバード大学ラドクリフ研究所のデイヴィッド&ロバータ・ロジー・フェローを務める。​

これまでに、ラインラント=ヴェストファーレン・クンストフェライン、ICAフィラデルフィア、ダラス・コンテンポラリーなどで個展を開催。​作品はThe Shed(ニューヨーク)、CAPCボルドー現代美術館、カーネギー美術館、ICAロサンゼルス、スイス・インスティテュート、ピナコテーク・デア・モデルネ、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレムなど、国内外の多数の美術館や施設で展示されている。​主な受賞歴として、2023年のFrieze Artadia賞、2021年のCreative Capitalグラント、2019年のGraham Foundationグラントが挙げられる。

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