ミケーレ・デ・ルッキ インタビュー:窓を開け、世界にあいさつしよう
03 Aug 2016
- Keywords
- Architecture
- Design
- Interviews
「窓は建物で最も重要な要素だ」と語る、イタリアを代表する建築家・デザイナー、ミケーレ・デ・ルッキ氏。80年代に、エットレ・ソットサス率いるデザインチーム「メンフィス」のメンバーとして活躍。家具から照明器具まで、斬新で遊び心あふれる作品を次々と発表。80年代初頭には自身の事務所aMDLを設立、2015年ミラノ万博での「パビリオン・ゼロ」の設計など、現在に至るまで精力的な活動を行っている。窓研究所は、ミラノの事務所にてデ・ルッキ氏への単独インタビューを行った。
1. スプーンから建築まで
イタリアの建築家として、私たちは普段2つのものを生み出している——ひとつはリノベーション、もうひとつは新しい建物。私たちのオフィスは両方を手がけている。リノベーションも数多く行ってきた。歴史と向き合い、どこは意義があり、どこは取り除けるかを見極めるのは、とても面白い。リノベーションをするのは新しい建物を建てるより時間も労力もかかるので、歴史的に重要な建物を取り扱うことは遥かに複雑だ。新築の建築にも多く取り組んできたが、意義あるものになるよう様々な機能を備えた設計を心がけている。人が使うためだけの住居や、オフィス用の建物を多くつくりたいとは思っていない。
そして個人的にはプロダクト・デザインもしている。モノ——イスやテーブル——をデザインするにはチームは必要ない。必要だったとしてもごく少数だ。シンプルかつ、シンプルであることに意味があるものをつくること——それが難しい。建物のデザインよりも、フォーク、スプーンやナイフを新しくデザインする方が遥かに難しいね。
2. 牧草地の中に十字架が見える、たったひとつの窓を持つ教会
窓は、壁の一部を切り取ったもので、壁と一体化している——だから窓のデザインは、ほとんど設計の一部であり、独立した作業ではない。少なくとも私たちの場合、設計であれリノベーションであれ、建物に合わせた、その特徴や哲学に沿って、できるだけ建てられた時代と響き合うように窓をデザインする。ご存知の通り、現代の窓は過去のようにシンプルなものではない——気温を保ち、音や太陽光を遮断したりする、極めて洗練されたものだ。
この小さな教会を見てほしい。スペインにあるキリスト教の聖地、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼について、ちょっとした逸話があるんだ。普通そこへ行くには、サン・セバスティアンからだいたい500キロあって、20日間歩くことになる。その巡礼地へはいくつか道があり、この教会があるドイツのバイエルンから2,500キロ離れたサンティアゴ・デ・コンポステーラまで、半年間歩いて巡礼に向かう人びともいる。
ここは大きな私有地で、巡礼者たちが通っていくものだから、土地の所有者は彼らに休む場所を提供するため、教会をつくってほしいと私に依頼してきた。教会は3メートル×5メートルのとても小さなものでなければならなかった。私は祭壇があって十字架が外に取り付けられた教会ではなく、窓から外にある十字架が見えるような教会をつくることにしたんだ。
教会の中には、まったく何もない。小さなベンチがあるだけだ。一つの丸い窓があり、そこから外を覗くと、芝生が見える。美しい自然の驚異や、強さとキリスト教の象徴が目の前にある。座ったら十字架が見える窓だ。毎年千人もの人が立ち寄って、十字架を眺める。これがポイントだ——座って、窓の外を眺めること。この小窓は自分でつくった。どの窓も私のスタイルの木製だ。いい窓だよ。
3. 木や真鍮でつくった窓
見ての通り、私は木が大好きだ。木はとてもいい。とても優れていて、持続性がある。日本の話をしよう。17世紀の日本には、ほとんど木がなくなっていた。現在では、1人あたりの木の量は世界最大級だ。日本は世界有数の森林国。それに木は調達しやすく、扱いやすく、手入れしやすいから素晴らしい。たとえ長持ちしなくても、取り替え可能だと感じられるところが優れている。日本では、あらゆる伝統的な寺院で何度も木が取り替えられているしね。そんな理由で、私も木を使って窓をつくっている。
それから、いくつか真鍮製の窓もつくった。真鍮は特に伝統的な建物や巨大な建物に向いている。真鍮を窓の模様として使うんだ。黒の真鍮はフランスではとても一般的で、私たちは「フランス・ブロンズ」と呼んでいる。それは暗くもなれば明るくもなる。真鍮の模様は美しく、材質の厚みも感じることができる。数年前に私たちが手がけたインテーザ・サンパオロ創設のガッレリア・ディタリア美術館(Gallerie d’Italia)には、約300年前の美しい宮殿がある。天候上の理由で遮断する必要があったため、私たちは美しい真鍮の窓で閉じることにした。
4.窓を開け、世界にあいさつする
窓は建物で最も重要な要素だ。窓は開けて外を眺めるだけでなく、内側さえ見つめることができるものだというべきかもしれない。私たちはたいてい、窓は光を取り込んで外を眺めるのに役立つものだと考えているが、内側に目をやるのも非常に楽しい。私は人びとが窓をどう眺め、空間をどう使い、何をしているかいつも知りたいと思っている。ライフスタイルは絶えず変化していくものだからだ。変化していくものだから、可能な限りそれについて行けるよう心がけている。
誰かを憎むのが好きな人間なんて誰もいない。生き物を憎んだりもしたくないし、誰かと戦争だってしたくない。攻撃的な誰かがいると、正気を失ったか、どこか不調なのではないかと人は疑いの目を向ける。確かに、そういう人はどこかに不調があるのかもしれない——もしそうなら、こちらは彼らがなぜ不調なのか、何か改善の手助けはできないかと分析してみなければならない。これも建築家であることの一部——建築家にはつきものの問題だ。だから窓は、外を眺め、内側を見つめ、どうすれば人に心地よく、そして仲よく暮らしてもらえるかを模索するための極めて重要なツールだ。
どこを見ても窓がある。世界に、自然に、そしてあらゆる人におはようと告げる——笑顔で窓を開けることがとても大切だ。暗い顔で窓を開けたら、その日はずいぶん嫌な1日になってしまうだろう。前にも言ったように、窓を開けることには確かな理由があるんだ——笑顔で窓を開けることにはね。
ミケーレ・デ・ルッキ/Michele De Lucchi
1951年にイタリアのフェッラーラで生まれ、フィレンツェで建築を学ぶ。前衛的で実験的な建築の時代、彼は「カヴァート (Cavart) 」、「アルキュミア (Alchymia) 」、「メンフィス (Memphis) 」といったデザインチームの中心として活躍。イタリアやヨーロッパの企業に向けて家具をデザイン、イタリアのオリベッティ社では1992年から2002年までデザイン・ディレクターを務め、コンパック、フィリップス、シーメンス、そしてヴィトラ社の実験的なプロジェクトを推進した。2003年にはパリのポンピドゥー・センターが彼の作品の大多数を収蔵。厳選された彼の作品は、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本の主要なデザイン博物館で展示されている。