July 6, 2016

現代写真から紐解く窓写真論

ホンマタカシ (写真家) × アレック・ソス (写真家)

様々な土地で窓の姿を切り取ってきた写真家アレック・ソスと、窓と写真の関わりを考察してきた写真家ホンマタカシ。現代写真の最前線で活動する二人の写真家が、「窓」をテーマに、ロバート・フランクからインスタグラムまで独自の写真論を展開する。

ホンマタカシ (以下:ホンマ)  窓研究所と僕は窓文化に関するリサーチプロジェクト (窓学) に関わっているので、今日はそのことについて話していきたいと思います。ソス氏は、日本でも2016年2月に「窓際のポートレイト」をテーマに展示をされていたのが印象的でした。僕が興味を持っているのは、あなたのホテルの窓から撮った写真です。あのシリーズがとても好きです。最初に僕が見たのはあるホテルの部屋の写真で、ロバート・フランクが以前撮ったものと同じポジションからのものでした。この写真の背景についてお聞きしたいのですが。

  • View from hotel window – Butte, Montana, 1956
    © Robert Frank, from The Americans

アレック・ソス (以下:ソス)  はい。ロバート・フランクが1950年代に炭鉱町にあるホテルの窓から撮影したあの写真は、私が一番好きな写真です。

  • © Alec Soth / Magnum Photos

ホンマ あれは実際にはどこにあるのですか。

ソス モンタナ州のビュートという町です。あの写真を好きな理由は、あれが私の写真に対する哲学について語っているからです。つまり私たちの周りの世界と同じくらい、写真を撮影している人間そのものを捉えたものになっている。あの写真はモンタナという土地と同時に、ロバート・フランク自身を、そして彼の旅先での経験を映し出しています。そう感じたので、私は実際にビュートを訪れ、あのホテルと窓を探し出しました。それ以来、旅をした際にはいつも、あの写真へのちょっとした目配せのようなかたちで、彼がやったように自分がいるホテルの窓から写真を撮り、インスタグラムに投稿するのです。

ホンマ 彼の作品集『アメリカンズ』 (1958) に載っている写真ですね。正確にはどのようにしてそのホテルをつきとめたのですか。

ソス 「ただ行った」だけです。あのホテルの所在地が分かったので、あの窓の場所を現地の人に尋ねたんです。以前にも、私と同じようにそこを訪れる人はいたそうですよ。

ホンマ 19世紀前半にニセフォール・ニエプスが世界で最初に撮影したといわれる写真をご存じかと思いますが、写真家は窓を通して見ることに、いつも強いこだわりを持ち続けてきました。

ソス ええ、もちろん知っています。その通りです。写真の仕組みそのものが、いわば「窓」の連続と言えます。つまり、瞳のレンズという「窓」から見た先に、実際の「窓」があり、そしてカメラのレンズ上のガラスがもう一つの「窓」となる。このような窓と反射の連鎖が、写真なのです。

ホンマ 瞳、窓、カメラ。何重にも層になっています。

ソス 何重にもなった層。そうですね。そしてそれこそが「世界を掴み取る」という、私にとっての写真というメディアがあるべき立ち位置なわけですが、常にそこには「距離」という要素も伴っている。つまり、それは「世界を自分のものにしたい」という欲求であると同時に「世界から距離をとっていたい」という欲求のメタファーでもあります。それもあって、私は窓の写真を多く撮っているのです。

ホンマ 我々は窓の写真についてリサーチを行ってきましたが、あなたの日本で展示された作品には「反射」 (Reflection) が多いですね。例えば窓のそばからのもの、またときには……

ソス 外から撮ったものもありますね。

ホンマ はい。そのような反射させたものの他にも、窓越しの写真 (Through the window) もありますね。何通りか方法がある、ということですね。

ソス ええ、間違いなく。

ホンマ ホテルの窓だけではないんですね。自宅の窓からも写真を撮るのですか。

ソス 自宅では撮りません、それは……

ホンマ 写真向きではない、と。

ソス ええ、残念ながら。単に自宅ではうまく写真が撮れないんです。ですから、「ノー」です。

ホンマ いろいろと旅をすることはあなたにとって重要なのですか。

ソス 確かにこれまでは重要でした。ですから、「イエス」です。自分でも変えたいと思っている部分でもあるのですが、とにかく私は家庭的なモチーフを撮る写真家としてはダメなんです。私には世界を見る上で、ある種そこから離れていることが必要、と考えているところがあります。例えば、もし私が自分の子供の写真を撮るのであれば、私はこの子のすべてを知ることになります。そうすると、私はその写真を決して自分の子供と切り離して見ることができなくなってしまうのです。

ホンマ 窓の写真に戻りますが、例えば反射によるものと窓越しに撮られたものに違いを感じますか。

ソス ええ、非常に異なっています。同時に、窓越しの写真と反射の間には、ある種のつながりもあります。ご存知の通り、MoMAの写真部門のキュレーターをしていたジョン・シャーカフスキーは有名な著書 『Mirrors and Windows』 (1978) の中で、写真におけるこれら二つのアプローチを対立的な概念として論じています。一つは「自分自身を見る」こと、もう一つは「世界を見る」ことです。でも、私の信じるところでは「窓」もまた多くの場合、半透明で反射があるため「鏡」でもあるわけです。「反射」の中には自分自身が映し出されるので、「鏡」と「窓」の間には連続性があるといえます。ですから写真における「反射」は非常に多くの場合、「外」を見ているようで「内」も見ているような性質を持っています。

自分が素晴らしいと思う、ある窓越しの写真では、実際には反射がないにもかかわらず、内側をのぞき込んでいるように感じられます。カーテンがあることも理由の一つだと思いますが、その写真は見る者に屋内にいることを意識させます。外に居ながら、窓を見ているという構図は、より「のぞき見」に近いものです。そしてそれは、自分にとって見るべきでないものやプライベートなものをのぞき見たいというある意味で病的な欲求のメタファーとして機能します。

ホンマ わかります。

ソス それから、ヨゼフ・スデックによる 1940年代からの 『Window of my studio』 シリーズもまた素晴らしい例だと思います。これらの写真から際立って感じるのは屋外の寒さなのですが、しかし同時に、見る者はこの写真から部屋の中にいることの暖かさも感じるのです。この並置こそが、彼の写真の力を生み出しています。

ホンマ 対照的なものが並置されているのですね。

ソス ええ、その通りです。私はエド・ファン・デル・エルスケンによる足にギプスをはめた女性の写真が一番好きなのですが、この写真をご存知ですか? 彼女はスキーリゾートのような所にいるのですが、窓のすぐ内側に寝そべっていて、足にはギプスをはめているのです。本当にあれは素晴らしい写真です。

  • © Ed van der Elsken / Nederlands Fotomuseum

ホンマ それは白黒の写真ですか。

ソス いいえ、カラーです。本当に素晴らしい写真です。実際、私はこの写真についての文章を書いたことがあります。この写真です。本当に好きだ。

ホンマ この写真、僕は知りませんでした。外もとてもはっきり見ることができるのに、同時に内側も見えていて、不思議ですね。

ソス ええ。後ろにも窓があったに違いない。間違いなく、ポール・フスコの 『ロバート・F・ケネディ葬送列車』 (1968) のケースと同じです。

ホンマ こちらの写真をご存じですか? これを撮影した横溝静氏はイギリスを拠点にしている日本人の写真家ですが、彼女はいつも撮影する誰かへあらかじめ手紙を託すのです。そして手紙で「8時ちょうどに窓の前に立っていて」 と伝えます。だから彼女はその相手とは直接何の会話も交わしていないんです。

ソス ああ、それについては聞いたことがあります。でも彼女が日本人だとは知りませんでした。

ホンマ 実は、この窓研究所と行っているインタビューのシリーズで、前回僕が彼女にインタビューしたのです

ソス 素晴らしいですね。

ホンマ 話は変わりますが、ここで一つ大きな質問をしてもいいですか。

ソス ええ、いいですよ。

ホンマ 写真家にとっての「窓」とはなんでしょうか。

ソス 例えば、この窓から外を見ることは、世界を自分のものとして所有するための一つの方法だと私は考えています。もし外にいたならば視界の「縁」を固定することができず、自分の視線が脇へそれてしまうので、世界を捉えることは難しくなります。ですが、窓を介することで、その風景を自分のものにすることができるようになるのです。同時に、そこに窓があれば、風や熱を直接感じないので、自分自身を世界から隔てることにもなります。私にとって、そのようにして世界から距離を置くことは、それを手放さないようにするために、ときには必要なものです。また、写真的な意味としては、シャッターを切り、時間を止めることによって、時間という概念を捉えることが可能になります。

ホンマ ああ、わかります。それでは、これらの写真について話していただけますか。 (ソス氏の撮影した写真を見ながら) これはどこですか。

ソス フロリダだと思いますが……確か、これはある雑誌の仕事の最中に撮影したものだったと思います。インスタグラムのような、ふだん我々が利用しているソーシャルメディアについて何か一つ言うとしたら、それは何というか「他の人々の生活をのぞく、ちょっと楽しげな窓」といった感じでしょうか。他の人々の生活を少しは味わってみなきゃ、みたいな。私の場合は、「見て、こんなに魅力的なホテルにいるんだよ」とか、「見て、こんなところに今いるよ。ひどいホテルだ」と見せたりする場合に時々使いますね。

ホンマ 例えばモーテルのような所ですね。

ソス はい。これらは、以前別の機会に滞在した場所に実際とても似ているんです。これはシカゴに滞在したときのものです。確かこれはビリー・ブラッグと一緒に国を横断する列車旅行の前に撮ったものです。

ホンマ ビリー・ブラッグ?

ソス ミュージシャンです。国を横断する旅をしたのですが、これは旅行に立つ前日のものです。ここのホテルはとても大変でした。ここでの滞在がおもしろく感じたのは、その直前に北海道をちょうど列車で旅したばかりだったからなんです。列車に13回も乗りました。網走に行って、それから本当に素晴らしかった長万部へ。この町は小さくて、ミネソタのようで大好きでした。とても厳しい旅でしたが……ときには小さな電気ストーブがあるだけといったような小さなゲストハウスに滞在し、ものすごく寒い思いをしたときもありました。そうこうしながら長万部に到着したのですが、あそこは良かった。素晴らしかったです。

ホンマ これはどこですか。

ソス 東京です。新宿のパークハイアットで撮ったものです。

  • © Alec Soth / Magnum Photos

ホンマ ああ。ソフィア・コッポラの映画 『ロスト・イン・トランスレーション』 (2003) の撮影地ですね。

ソス その通りです。

ホンマ これはスパイク・ジョーンズ監督の映画 『her/世界で一つの彼女』 (2013) に出てくるシーンのようにも見えますね。

ソス その通りです。この映画、大好きなんです。素晴らしい映画です。面白いのは、 『ロスト・イン・トランスレーション』 と 『her』 がとても似ていることです。

ホンマ ええ、わかります。

ソス この二つの映画は間違いなく関係があるはずです。そして、どちらの映画も、社会から少し疎外されているという経験と関連がある。

ホンマ なるほど。それは面白い考察ですね。ところで、時々、自分自身の写真も撮っておられるようですが。

ソス ええ。以前はセルフポートレイトは避けていたんですが、インスタグラムを始めてから、突然、他の人と同じように自分の写真を撮りたいという欲求を感じたんです。と同時に、その欲求に対するフラストレーションも感じました。それから、自分の顔がぼやけて見えなくなっている『Unselfies』 (=非自撮り) のシリーズを撮ったのですが、これは自分の中で戦いのようなものでした。自分を不幸せであるように見せることと、同時に自分自身を見せたい、ということとの戦いです。

ホンマ ああ、わかります。面白いですね。それでは最後に、あなたのポートレイトを窓際で撮らせてもらえますか (笑) 。

ソス もちろん。スカーレット・ヨハンソンのように座ります? (笑)

ホンマ 彼女のように。ええ (笑) 。

ホンマタカシ/Takashi Homma 1962年東京生まれ。2011年から2012年にかけて、自身初の美術館での個展『ニュー・ドキュメンタリー』を、日本国内三ヵ所の美術館で開催。写真集多数、著書に『たのしい写真 よい子のための写真教室』、2014年1月に続編の『たのしい写真 3 ワークショップ篇』を刊行。現在、東京造形大学大学院客員教授。

アレック・ソス/Alec Soth 1969年ミネソタ州ミネアポリス生まれ。2004年にマグナムに参加、2008年より正会員。「オン・ザ・ロード」系アメリカ現代写真を継承し、早くからコンテンポラリーアートの世界で注目を浴びる。2013年、グッゲンハイム奨励金受賞。サンフランシスコ現代美術館、ヒューストン現代美術館、ミネソタ州ウォーカー・アートセンター等の美術館に作品が所蔵されている。また、ニューヨークのホイットニービエンナーレ(2004)、パリのジュ・ドゥ・ポム(Paris, 2008)、ロンドンのメディア・スペース (2015) など、世界各地で数多くの展覧会を開催している。 写真集に「Sleeping by the Mississippi」(2004)、「Niagara」(2006)、「Fashion Magazine」(2007)、「Dog Days, Bogota」(2007) 、「The Last Days of W」(2008)、「Broken Manual」(2010)、「Songbook」 (2015) 、「Gathering Leaves」 (2015) などがある。2008年には、Little Brown Mushroom という出版社を自ら立ち上げ、優れた写真集を数多く出版している。