蓮沼執太(音楽家、アーティスト)

音楽家、アーティスト。1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽を制作。作曲という手法を応用し、展覧会やプロジェクトも行っている。最新アルバムである蓮沼執太フルフィル『フルフォニー』(2020年)をはじめ、音楽作品多数。主な個展に、『 ~ ing』(資生堂ギャラリー・東京、2018年)など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。⁠

March 18, 2021

蓮沼執太|窓を開ける音楽

その名も「ウィンドアンドウィンドウズ」というプロジェクトを続けている音楽家・アーティストの蓮沼執太さん。窓を開け、外の気配と共に風を感じ、また閉めては考えを深め、手を動かす——その営みの繰り返しの中で、音楽作品や、インスタレーションといったアートピースが生まれていくといいます。いつも蓮沼さんの傍らにある、「窓」についてのエッセイです。

 

~ window

開けはなして、目をつむる。わずかに感じる風。街路樹の葉の重なり、近くから人の話し声、すごく遠くの道路の騒音。外側と内側がつながりはじめ、やがて混じり合っていく。人間が主体ではなくなって、空気のような存在になっていく。その必要性は作品にも言える。自分が作り出したものに主体があるのではなく、目に見えない音が空気中に放たれ、空間に混じりながら、音波として流れていく。空間に閉じ込めず、外気を取り入れながら漂わせておけば良いと思っている。風のように。常に捉えることが出来ず、絶えず変化していくもの。それが音。いつかは全ての音は減衰していき、消えていく。その永遠の繰り返しが、僕たちの世界を作り上げていき、同時に無くなってもいく。音に携わるアーティストとして、僕は常に外の世界と交わっていたい、という気持ちがある。それは環境だったり、社会だったり、他者だったり、様々である。自分がいかに社会に生かされていて、いかに他者と向き合って営みをしているのか、そしてこの環境の中で息を吸うことができることの大切さを思う。

僕のスタジオにはいつも窓がある。サウンドやアートピースを制作する空間には窓が必須なのである。作品を作る自分自身、生まれてくる作品も出来るだけ中間に存在出来るように、開けっぱなしにして外気と交わっている。そうすることで世界の声が聞こえてくるように感じる。風や光が世界を知らせてくれる。それは季節の変化や1日の移り変わり。時計に縛られずに時を感じることも出来る。そうやって文明と自然の間を繋げてくれる存在にもなっている。

音響の世界では、ガラス素材が使われる壁などは正確に音を確認出来ないという理由で使用を控えることが多い。サウンドスタジオと聞いて思い浮かぶのは地下スペースや、硬い壁に囲まれた場所、無響室のようなクローズドな空間かと思う。窓があったとしてもマイクを立てて録音をする際、開けっぱなしにしていたら、外の音が入ってしまう。音響エンジニアリングの方々に怒られてしまいそうである。でも、僕は窓を開けながらレコーダーを回したりもする。それは僕がフィールド・レコーディング(環境音を録る)から、音にまつわる活動を始めたことに由来するかもしれない。内側の空気振動だけを録音するのではなくて、録音される楽器(音が出る物など)の外側の音にも興味があるのだと思う。現在の制作場所では、朝に鳥が「おはよう!」と言うように鳴いている。耳を澄ますと、その時々でいろいろな種類の鳥の挨拶が聞こえてくる。その鳥の声は「いま」しか聞こえない。例えば、そんな「いま」窓を開けたままアコースティック・ギターを録音するべくレコーダーを回す。そうするともちろんギターの音がフィーチャーされるものの、その背景には微かに鳥の挨拶も記録され、音となって存在しはじめる。これはノイズではない。主体性のある鳥の声である。世界には人間、動物、植物、様々な営みによって既に「いま」たくさんの音がある、それらを確認しながら僕のクリエーションはスタートしていく。