オシアン・ワード(美術評論家)

Ossian Ward (Art Critic)

リッソン・ギャラリー(ロンドン/ニューヨーク)のコンテンツ部門を率いる。現代アートのライターとして活躍。2013年まで6年以上にわたり『Time Out London』のチーフ批評家、ヴィジュアル・アーツ部門のエディターを務めたほか、『Art in America』、『Art+A uction』、『The World of Interiors』『Esquire』、『New Statesman 』、『Wallpaper* 』などの雑誌や、『Evening Standard』、『The Guardian』、『The Observer』、『The Times』、『The Independent on Sunday』などの新聞にも寄稿。これまで『ArtReview』、『V&A Magazine』のエディターを務めたほか、『The Art Newspaper』に勤務した経歴を持つ。2005〜2010年にかけて、テームズ・アンド・ハドソンの『The Artistsʼ Yearbook』(隔年刊行)の編集を手掛けた。自著の『Ways of Looking: How to Experience Contemporary Art』は2014年にローレンス・キングから、2018年には続編がテームズ・アンド・ハドソンから出版された。

October 8, 2020

Ch.3 ビューファインダー/透明性と窃視

アルブレヒト・デューラーからアイ・ウェイウェイまで

再現描写によるイメージはどれも外界をフレームにおさめ、作者が望むものだけを見せるビューファインダーである。そこからのぞく景色は有限で、一定の境界線、もしくはフレームの縁よりも内側に形成される。そしてその表裏には何らかの主体・客体関係が伴うこと、再現された景色の一部または全体がフィクションである可能性を示唆する。レオン・バッティスタ・アルベルティは初期の著書『絵画論』(1435年)で絵画と遠近法について論じ、15世紀の芸術家たちが目の前の物体を平面や記号に置き換えるのではなく、三次元に見えるように描くことで、中世技術の先を行こうと試行した様子を伝えている。書中においてアルベルティは「まずはじめに、必要な大きさの枠を描く。これを自分が描きたい対象に対して開く窓であるとみなす(Alberti, 1435=1972, 54-55)」と述べ、透視図法の精度向上のための方法を論じた。これにつづき写実画の新時代を支えるさまざまな装置が発明されるようになり、そのなかで「アルベルティのフレーム(ヴェールとも) 」と称されるものが登場した。

February 3, 2020

Ch.2 フレーム―視覚的な装置、あるいはトロンプ・ルイユ(だまし絵)としての窓

マンテーニャからライアン・ガンダーまで

 

アーティストは外の世界と対峙したり、自己の内面を見つめるものであるが、いずれにせよ多くの場合、「窓」という枠組みの制限を受ける。直方体のキャンバスや白紙を埋めていくよう期待され、逃れることはできないが、数え切れないほど多くの可能性や果てしない宇宙で画面を満たすことなど、不可能だ。窓やキャンバス、白紙は外へと通じる開口部で、全体のほんの一部分に過ぎず、目に見える現実世界のわずかな片鱗のみを映し出している。窓やアート作品とは限りある画面であり、やむなく妥協した末の、断片に過ぎない出口あるいは入り口といえる。一方で、テレビ画面、本のページ、写真、スマートフォンやタブレットなど、現代生活の大部分にそうした直線的な境界線の介在が増えていることもまた事実だ。こうしたいわば「窓」は、制限ある視野をもたらすものというよりは、異世界へつながる魔法の扉、あるいは不可思議で本物とみまごう描写といえるだろう。

April 26, 2019

Ch.1 アトリエから見るアーティストの内面

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒからスペンサー・フィンチまで

アトリエや机で、最初の一筆を喚起する記憶やインスピレーションをじっと待つかのようにまっさらなキャンバスや紙を真剣に見つめる作家。そこから立ち現れてくるのは、作家の世界観や、ある一瞬の心の動きを窺わせる表現である。作品の主題や描き始めの衝迫がなんであろうと、まっさらな画面は侵食されるためにある。異なる世界を映す窓に生まれ変わるために。