February 21, 2019

小窓ブロックの生垣

『超芸術トマソン』の英訳者、マシュー・ファーゴが窓目線で綴る路上観察記。いつもとは別の角度から街を見ると、新しい発見がある。意図せぬ動機から生まれた「窓芸術」の面白さをユニークな視点で語ります。

新宿の裏通りにある、モルタル塗りのコンクリートブロック塀。日本でよくみかける風景だ。そもそも日本におけるコンクリートブロック塀とは、戦後の建築ラッシュ時に建設費用が抑えることができ、耐火性も高められる構造として普及した外構壁である。そして、その意匠や通気性を高めるために発展して行ったのが、コンクリートブロックに「小窓」を開けた透かしブロックや意匠ブロックと呼ばれる建材だった。

アメリカでは、1855年の時点にすでに透かしブロックの前身とも言える、穴あきブロックの製法特許が認定されていた。穴を開ける理由について、特許資料には「ブロックの乾燥を早めるため」1 とだけ書かれているが、他にも、使用原料を削減し、ブロックを軽く持ち運びやすくすることができるというメリットがあった。また、積み立てたブロックの穴に鉄筋を通すことで強度の高いブロック塀を作ることができたし、配線用のパイプを通すことで電気ケーブルを整備することもできた。2

こうした様々な理由でブロックの中心にぽっかりと穴を開けたのが、今思えばとんだ先見の明だった。20世紀に入ると、アール・デコとともにブロックまでもが装飾され、現在よく見かける柄物が登場していった。

左から、井桁、菱、松の透かしブロック
Ishikawa Ken撮影

さらに言えば、その小窓がなんらかの事情で塞がれて窓の機能を失い、トマソンになることだってある。そんな光景に遭遇し、コンクリートブロックの大きさ、並び順、色褪せ具合から、昔は塀に小窓が空いていたことがわかると、窓ごころが騒ぐ。「あ、窓で無くなった窓だ!」、と。

しかし、今回の場合は一味違う。なぜなら、小窓が完全に塞がれているわけではなく、わずかながらに視線、音、空気を通すという窓の機能を果たしているから。2 むかし近所に年中雨戸を閉めっぱなしにしている家があったが、この小窓もやはり色々あって、生垣の雨戸を閉めきってしまったのではないかと、通るたびに考えさせられる。

 

 

1 仕様によっては、穴を開けなければコンクリートの乾燥までに数ヵ年かかることがある。
2 かつて赤瀬川源平が率いた路上観察学会は、植物がモノに劣らず成長している状況を「植物は強しタイプ」と位置づけ、トマソンのひとつとして認定した。具体的には、「育ち盛りの植物がガードレールに噛みついたり、ブロック塀を割ったり、鉄柵を飲み込んだりというヤンチャのし放題をやっている」ものが事例としてあげられる。

参考文献
Foster & Messinger. Building Block. Patent Jan. 16, 1855. US12264A United States.
赤瀬川源平(1987).超芸術トマソン ちくま文庫.472-473

 

 

路上観察学
身の周りのあらゆる事物を観察の対象として、無目的かつ無意識的な路上の物件の面白さをあるがままに観察しあるいは採集する行動、フィールドワーク。 1986年に赤瀬川原平,藤森照信,南伸坊らを中心メンバーに路上観察学会を結成。その調査研究は今和次郎、吉田謙吉の考現学の視点を原点に森羅万象を対象とする。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

マシュー・ファーゴ/Matthew Fargo
翻訳家、テクノロジスト。バークレー大学日本文学部大学院より博士号、ニューヨーク大学インタラクティブテクノロジー学部(ITP)より修士号を取得。近年では赤瀬川原平著『超芸術トマソン』の英訳、NNNNYのメンバーとして多岐にアート活動、iOSアプリ「EKIBO」の開発など、デザインと文学の共通性をあえて探らず、平行で活躍。