January 23, 2019

Adobe ウィンドウズ

日本を代表する前衛芸術家・赤瀬川源平による随筆『超芸術トマソン』の英訳者、マシュー・ファーゴが窓目線で綴る路上観察記。いつもとは別の角度から街を見ると、新しい発見がある。意図せぬ動機から生まれた「窓芸術」の面白さをユニークな視点で語ります。

ロサンゼルス・ハリウッドの住宅。アメリカ西南部でよく見られるスパニッシュ・コロニアルリバイバル様式の建築。こうした地域がスペインの植民地下に置かれていたころに、入植者がプエブロ族など先住民の建築法を取り入れ発展させたもの。つまりプエブロ族の建築様式をスペイン人が模倣し、その模倣をアメリカ人がさらに模倣したものだ。その骨組みとなっているのは、アドビ建築と呼ばれる日干し煉瓦を用いた建築様式である。

赤い瓦に、スタッコ仕上げの外壁。スタッコは、「ロスのお肌」という通称で親しまれるほど、カリフォルニアでは一般的な素材だ。安くて耐震性・耐熱性に長けているため、地震が多く砂漠気候のロスに適している。カリフォルニアの地主がプエブロ人からスペイン人へ、スペイン人からアメリカ人へと切り替わっても、このスタッコという素材は変わらずに土地の一部として受け継がれてきた。この素材は、「西南部の大理石」という、大げさな名前で呼ばれることもあるらしい。

さて、この物件でまず気になるのは、なぜ窓が塗り潰されているのかという疑問。温暖化が進むなか、ロスのキツい太陽光への対策を講じたのだろうか。もしくはハリウッドという立地だけに、プライバシー保護のためだろうか。それに、白いスタッコから茶色いスタッコに切り替えているタイミングが、どうもおかしい。スタッコというのは普通の塗料と違って、一旦材料を混ぜ合わせたらその場で使い切らないと捨てるハメになってしまう。茶色いスタッコがまるで水準でも持っているかのように、一定の高さを守っているのは、どういう意味なんだろうか。

これに気づいてから、まる3日間考え込んでしまった。そして 3 日目に、ひらめきました。「ハシゴ」という3文字が。おそらく、窓を改修した際に白いスタッコを十分に用意しておらず、挙句にはハシゴも忘れ、とりあえず手が届くと範囲を塗ったのだろう。そしてハシゴが手に入ったときには、すでに白いスタッコを使い果たしていたので茶色に切り替えた、という具合ではないだろうか。

なお、アドビ建築様式の窓について調べる際には、「Adobe windows」というワードをどう検索しても、ソフトフェアに関する情報しか出てこない。そのため今回、筆者は久々に図書館へ足を運ぶことになったのだった。

 

 

路上観察学
身の周りのあらゆる事物を観察の対象として、無目的かつ無意識的な路上の物件の面白さをあるがままに観察しあるいは採集する行動、フィールドワーク。 1986年に赤瀬川原平,藤森照信,南伸坊らを中心メンバーに路上観察学会を結成。その調査研究は今和次郎、吉田謙吉の考現学の視点を原点に森羅万象を対象とする。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

マシュー・ファーゴ/Matthew Fargo
翻訳家、テクノロジスト。バークレー大学日本文学部大学院より博士号、ニューヨーク大学インタラクティブテクノロジー学部(ITP)より修士号を取得。近年では赤瀬川原平著『超芸術トマソン』の英訳、NNNNYのメンバーとして多岐にアート活動、iOSアプリ「EKIBO」の開発など、デザインと文学の共通性をあえて探らず、平行で活躍。