December 16, 2013

VOL.3 英語におけるWindow

植田康成

言語学者 植田康成が世界各国の「まど」の語源に迫る。窓という言葉の概念がどのように拡張されていったのか、その過程を探る。第3回は日本人にも身近となった英語において窓をあらわす「Window」を考察。

1.はじめに
今回は、英語のwindowという語について考える。この語は古代北欧語vindaugaに由来し、本来の意味は「風の目」である。現代英語の基本語彙の一つであるが、英語史を振り返ると、この一つの語からも、英語そのものが辿ってきた言語としての複雑な事情やグローバルな背景が覗える。

かつて、「窓」を表す語として、windowの他に、住まいに穿たれた「穴」を意味するfenestreという語が併存していた時代があった。1066年のノルマン人侵攻後、大量のフランス語が英語圏に流入した結果、ラテン語fenestraを由来とするフランス語が1600年頃まで借用されていたのである。つまり語源にもとづく「まど」の類型 (本コラムVol.0を参照) から言えば、それぞれ異なるタイプの二つの語が共存していた。いつしかfenestreの方は消失し、現在ではwindowのみが残った。本稿では、言語学的な観点からこのあたりの事情について考える。

2.言語学的観点から見たwindow
まずはwindowを構成要素とする複合語や慣用表現およびことわざを言語学的に分析する。

2.1.windowを構成要素とする複合語
windowの前に他の語がくる「X window」のタイプと、後ろに他の語がくる「window Y」のタイプがある。前者には、car windowやdormer windowなど窓の種類を表すもののほか、bow window、double-hang windowといった窓の造りを表すもの、また、show windowなど窓の目的に関わるものがある。後者のタイプとしては、たとえばwindow shadeが挙げられる。後半部分の動詞 (あるいはその派生語) が表す行為が窓に及ぶことを示している。また、window garden、window box、window shopping、window dresserなどでは、窓は、後半の語が指示する事物を設置したり、行う場所となる。

『オクスフォード英語辞典』 (Simpson 1989) では、現在比喩的に用いられるようになったものとして、59語が特別な結合とされている。すなわち、もはや住まいの一部を形成する窓の意味は消失し、窓がもつ特定の機能や側面が慣用的に強調されている。たとえばwindow dressingは「見せかけ」という意味である。本来外を展望するために住まいに穿たれた「穴」としての窓は、外から内部をのぞき見られる可能性も生み出す。それを逆手にとり、積極的に窓を飾り、家の内部を外に向かって展示するようになった。それが転じて、住まいに限らず、対面的な部分を飾る行為そのものを示すようになったのだろう。

2.2.windowを構成要素とする慣用表現とことわざ

2.2.1.windowを構成要素とする慣用表現
windowを構成要素とする慣用表現として、come in by the window (こっそり入る) 、a window on the world (他国民を知る手段) 、the window of vulnerability (弱点) などがある。come in the windowは、正式の入り口ではない場所から侵入するということだから、窓そのものをまだ直接イメージできる。しかし、a window on the worldやthe window of vulnerabilityでは、窓の機能が転義的に使用されて意味の中心を担っている。前者は、外界への展望、後者は、たとえガラスで覆われているとしても、窓が本来壁の一部に開けられた「穴」であって、そこから容易に内部に侵入されやすい、いわば「家の弱点」にもなり得ることを示唆している。windowという語そのものは、語源のタイプとして「風の目」に属するのだが、その意味内容には他の二つの類型「穴」と「目」が取り込まれている。

2.2.2.windowを構成要素とすることわざ
『オクスフォードことわざ辞典』 (Harvey 1952) には、次のことわざが収録されている。A woman that loves to be at the window, is like a bunch of grapes on the highway. (窓辺にいることを好む女は、ハイウェー上の葡萄と同じだ。) Love comes in at the window and goes out at the door. (愛は窓から入ってきて、戸口から出て行く。) To a fair day, open the window, but make you ready as to a foul. (晴れた日には窓を開けて、悪天候に備えなさい。) To throw (fling) the house out of the windows. (大混乱を起こす。) When the wares be gone, shut up the shop windows. (商品が売れてしまえば、店の窓を閉めなさい。)

『アメリカことわざ辞典』 (Mieder 1992) には次のことわざが載っている。He whose windows are of glass should never throw stones. (ガラス窓の家を持つ者は、 (隣に) 石を投げてはいけない。) A home without books is like a house without windows. (本のない家庭は、窓のない家のようなものだ。) When you are washing windows, do the corners first and the center will take care of itself. (窓を洗うときは、まず隅を洗うことだ。中心部分は自ずときれいになる。)

イギリスとアメリカの辞典では全く異なることわざが収録されているという事実も興味深い。それぞれの歴史や文化の違いを反映しているのであろう。ともかくも全てのことわざについて言えるのは、住まいの一部をなす窓について直接言及しながら、生活の知恵や教訓を伝えているということである。

3.英語windowの歴史
とりわけ慣用的に用いられている言語表現を見たとき、結論として間接的に言えるのは、windowを構成要素とする表現の意味内容に古代ゲルマンのvindaugaが有していた「風の目」は確認されないということである。逆にfenestraのもつ「穴」、他の類型に属する言語の「展望」機能を想起させる意味内容となっているものがある。これは一体何を意味するのだろうか。

ノルマン人侵攻後2百年ほどの間、イギリス社会ではフランス語が公用語とされていた。上層階級の人々が主にフランス語を用いる一方、一般庶民は古代英語の世界に留まり、社会全体としてある種の二言語併用状態にあったのである。百年戦争後、フランス語の地位が低下し、再び英語がイギリス社会の公用語となった。社会を支える一般庶民の間で、とりわけ生活の基本に関わる分野でゲルマンの語彙が保持されたまま、外来語が消えていったと見られる。しかし、fenestraの概念や用法は、windowという言語形式に取り込まれて、現在まで残っている。

そもそも英語は、多くの言語要素を取り込んで展開してきた典型的な混交言語である。windowの背景にあるこうした事情も、英語という言語が辿ってきた歴史の一端を示すものと言えよう。動詞windowの過去分詞形windowedは、まさにfenestraに由来する「穴のある、穴だらけの」というものである。この語 (window) がゲルマン語時代から現在に至る長期間に及んで使用され、展開してきたことの証左といえよう。

4.おわりに
現在、英語は世界共通語としての地位を不動にしつつある。この点をもとに将来を展望するなら、windowという語は、それぞれの話し手たちの母語における「まど」の意味概念を吸収したものとなっていくのではないだろうか。すなわち、windowが基本的には住まいの一部分をなす「まど」であることを核としながらも、イメージや概念など認知的な面に関わる周辺部では、個々の話し手たちの母語に影響されていくことだろう。windowという語を通して、英語のダイナミックな歴史的展開が垣間見られるのである。

 

参考文献
・Ando 2011:安藤貞雄 (編) 『三省堂英語イディオム・句動詞大辞典』、三省堂、2011年。
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・Brewer 1994年『ブルーワー英語故事成語大辞典』、加島祥造他訳、大修館書店、1994年。(Brewer's Dictionary of Phrase and Fable.  Cassell Publishers Ltd., 1989の日本語訳)
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・Hori 1862:堀達之助 (編) 『A POCKET DICTIONARY OF THE ENGLISH AND JAPANESE LANGUAGE 英和對譯袖珍辭書』、江戸、徳川幕府洋書調所、文久二年 (1862年) 。 (複製版2刷、東京、秀山社、1988年)
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・Sanseido 1998:三省堂編修所『大きな活字のコンサイスカタカナ語辞典』、1998年 (第7刷)
・Shipley 2009: シップリー『英語語源辞典』 (梅田修・眞方忠道・穴吹章子訳) 、大修館書店、2009年。 (Joseph T. Shipley, Dictionary of Word Origins. Philosophical Library Inc., 1945の日本語訳)
・Simpson 1989: THE OXFORD ENGLISH DICTIONARY. SECOND EDITION. Prepared by J. A. Simpson and E. S. C. Weiner. Volume XX (Wave-Zyxt). Oxford: Clarendon Press, 1989.
・Spears/Kirkpartrick 1993年Richard A. Spears/Betty Kirkpartrick, NTC's ENGLISH IDIOMS Dictionary. Lincolnwood/ Illinois, 1993.
・Takebayashi 2002年 竹林滋 (編) 『KENKYUSHA'S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY 研究社 新英和大辞典』、研究社、2002年。 (第6版、第1刷)
・Terasawa 2004:寺澤芳雄『英語語源辞典』、研究社、2004年。 (縮刷版、第2刷)
・Toda 2003: 戸田豊 (編) 『現代英語ことわざ辞典』、リーベル出版、2003年。
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・Webster 2002: Webster's Third New International Dictionary OF THE ENGLISH LANGUAGE UNABRIDGED, 2002.

植田康成/Yasunari Ueda 1948年、鹿児島県大島郡徳之島生。神戸大学文学部哲学科卒業、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。千葉大学人文学部助手及び講師、九州大学教養部助教授、広島大学文学部助教授、2001年より広島大学大学院文学研究科教授、2013年同退職。博士 (文学) 。専門は現代ドイツ語研究。とりわけ、日独慣用表現の対照研究及びカール・ビューラー (1879-1963) の言語理論を中心とする研究。ドイツ社会言語学、応用言語学 (外国語教育) 。近年は、日独イディオム対照研究の成果にもとづいて語彙学習に対する提言を行うことを目指している。