March 20, 2018

第5回 「窓をつくることで見える世界」から考えること

小林博人 (慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

慶應義塾大学SFC小林博人研究会による連載「窓をつくることから学ぶ」。全5回にわたり、東北からアジア、ヨーロッパ、アフリカまで、多様な場所での窓をつくる試みを紹介。最終回である今回は、小林博人教授がこれまでの研究会のプロジェクトを振り返る。

 

2011年以降、自分たちで建てる建築を模索するなかで、私たちは何をつくろうとしてきたのか、そしてその過程でそこに何を見ようとしてきたのだろうか。

東北の2つのコミュニティハウスのプロジェクトでは、地元の人々が主役となって建設するコミュニティのための家の建設過程が、コミュニティを再縫合する過程そのものであることを経験した。その後に取り組んだミャンマー・フィリピンでは主に児童が利用する施設であることから、子供が実際に建設に参画することを目論み、プロジェクトに子供たちを巻き込むことを試みた。

  • 私の窓、僕の窓(ミャンマー)
  • 窓台に腰かけて(フィリピン)

さらにネパール、田根コンゴへのプロジェクト展開を通して、地元の人を巻き込み、こちらの手持ちの技術をいかに浸透させられるか、建築の新しいつくり方の仕組みが地元の建築と適切に融合されるかという試みを行った。そしてクロアチアに茶室を建設することにより、ヨーロッパの最大の懸念である移民の受け入れのための住宅供給に貢献できる建設システムの提案を行った。

  • 夕景(クロアチア・ヴィス島につくった茶室)

私たちはこれらの建設経験を通して、自らが予定・予想していた建築を建設することへの限界を感じ、その改善の可能性を知った。そしてそれらの経験は、これからの建築を超えたコミュニティや都市への展開を可能にするものだと考えている。

全てのプロジェクトに通底する概念は、建築を自らつくることで社会の課題にコミットしていくということである。どのように課題と向き合い、どのような成果を残すことができるのかを各人が目の当たりにしながら、そこで得た学びを通じて課題を「自分ゴト」として捉え、建築を自分のものとしていくことが、そこでは重要となる。

  • まだ工事中(フィリピン)
  • 製作中(コンゴ)

そして同時に自分だけではなく周りの人を巻き込んで一緒に自分のもの・ことにしてもらうことができれば、そこで得られるものは空間としての建築のみならず、その建築を介した人的なつながり、豊かな関係の構築であるともいえる。

窓は、それまで何気なく眺めていた風景を一つの枠組みにより切り取り、その風景の特徴を際立たせ浮かび上がらせる。他の風景を隠し、一幅の絵として見せる風景の見立てである。

いつも見ている風景だからこそ、そのものが持つ良さや魅力にはなかなか気がつかない。しかしそれを枠組みにあてはめて見ることで、その風景の見え方が変わり、それまで気づかなかった風景の魅力が際立って感じられる。

  • 切り取られた風景(ミャンマー)
  • 切り取られた風景(滋賀県・田根)

風景自体の本質的価値は変わらないのにもかかわらず、こちら側の風景へのアプローチをひとつ変えるだけで、その場所に対する意識が大きく変質するのは、自分と対象である風景との間に大切な関係づくりが行われたからだといえよう。自分に対する他者を明確に位置付けるのは窓の果たす役割のひとつである。

窓は、内と外をつなぐ媒介である。内外の境界である壁に穿たれるがゆえに、本来つながることのない内外の二つの世界をつなげてしまう。外界の世界を内なる環境に引き込み、内なる世界を外に発散する開口となる。

気持ちのいい風や光が通過することを歓迎するも、侵入を嫌うものが窓を介して入ってきてしまうこともある。窓からの好まれざる者の侵入を防ぐために、その開口としての機能に制約が生じることとなり、窓による自由な内外の交歓が妨げられる結果を生む。窓により境界を破ることによる功罪である。

  • 切り妻部分の開口(フィリピン)

窓から眺めることが内外を関係づける行為であると考えるとき、その視線は風景の中の物質的要素だけに向けられているわけではない。その風景のなかに見ているものは、時空を超えたその場所の有する社会的・文化的側面であったり、ゲニウス・ロキ(土地固有の魂)であったりする。それらはその窓から見られる精神的風景ともいえるだろう。窓がつなぐ異なる文化の交歓は、穿たれた窓が生むもうひとつの大切なはたらきである。

これらの建設過程で、私たちは建築の窓をつくる行為を通して、窓そのものの意味を考え、窓が果たす役割について考える機会を得た。窓自身が自分のものとなったばかりではなく、窓が気づかせてくれる魅力ある風景、窓がつなぐ内と外、 窓が結びつけてくれる異なる世界を、実体験を通して体得することができた。

窓をつくることから見えてくる世界には、そこに自分の身を置き、自分の頭と手を使ってはたらきかけ、心の目で窓の先に見える風景を見るからこそ見えてくる風景がある。その目を窓づくりは育ててくれている。

 

 

小林博人/Hiroto Kobayashi
建築家、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。京都大学、ハーバード大学大学院デザインスクール(GSD)にて、建築設計・都市デザインを学び、日建設計、ノーマン・フォスター事務所にて設計の実務に携わる。2003年から小林・槇デザインワークショップ(KMDW)を主宰。スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル社(SOM)日本代表。2003-05年GSD特別研究員、2011-12年MIT客員准教授、2012-13年UC Berkeley日本研究所研究員。日本における伝統的なコミュニティの形態である「町」に関する研究でGSDからデザイン学博士号を取得。現在は国内外の設計活動に加え、2011年の東日本大震災以降合板を用いた簡易セルフビルド建築「ベニアハウス」の開発、および都市更新時のサステイナブルコミュニティ継承の手法を研究中。