January 30, 2018

第4回 異文化に目を開く窓

ベニアハウスプロジェクトチーム/小林博人研究室 (慶應義塾大学)

ベニアハウスプロジェクトでは2016年9月、クロアチアのヴィス島で日本の茶室をコンセプトにコミュニティハウスの建設を行った。

アドリア海に浮かぶヴィス島は、伊豆大島ほどの小島ながらギリシャ時代からの航海上の要衝で、オリーブ栽培やワイン醸造などの地元産業も盛んであった。しかし近年人口減少が進み、最盛期に1万人あった人口も現在では3000人を割っている。

そこで本学理工学部や東京大学、ミラノ工科大学などが共同して島活性化のためのシンポジウムを5年継続して行ってきた。

今回のプロジェクトの目的はシンポジウムの主旨に基づき、ヴィス島の住民、特に子供たちが使用する施設を建設することで、ヴィス島とその豊かさ、そしてその将来について考えるきっかけをつくること、そしてそれに加え、現在ヨーロッパの最大の問題となっている移民・難民のための居所について、その建設の可能性を検討することにあった。

このコミュニティハウスには4つの意図が込められている。一つ目は、この建物がセルフビルドで建設され、誰にでも建設でき、また地域の人々に愛される建築となることである。

小林博人研究会ではデザインや建築を「自分ゴト」として捉えることを促進する研究活動を続けており、ベニアハウスプロジェクトでは、施工を経験したことがない人でもハンマーさえあれば組み立てることのできる建築を目指して様々な場所で建設を行ってきた。

このヴィス島のコミュニティハウスも例外ではなく、基礎工事の段階から現地の人たちと共に作業を行い、竣工までに40名を超える人たちの手を経て工事が進められた。

また、今回は特にシンポジウムで滞在していた理工学部やミラノ工科大学の学生の多くも施工に参加したため、ヴィス島の住民に留まらない多くの人に施工を経験してもらい、この建物を自分のモノにしてもらうことができた。異なる文化的背景を持った人々が共に施工をすることで異文化交流が生まれ、新しいコミュニティが生まれることが島を元気にしていく力になると考える。

二つ目は、これがヴィス島にとって今までに無かった新しい建物となり、島の伝統的な文化と新しい文化の融合を促すという意図である。この建物は上述の通り日本の茶室をそのベースとしており、日本の建築文化を伝える施設としての役割を担っている。

今までのヴィス島には存在しなかった木造の建物というだけではなく無双窓や丸窓、縁側など日本の伝統建築の要素を盛り込み、ヴィス島における日本を伝えるユニークな建物となった。

なかでも丸窓が重要な鍵となっている。それは建物の中から丸窓を通してヴィス島の特徴的な景色が切り取られて見えるところにある。

丸窓を通して外を見るとヴィス島を取り巻いているアドリア海を引き込む静かな港、そしてヴィス島開拓時から建つ歴史的な教会を一望することができる。

このヴィス島を象徴する景色は、このコミュニティハウスの建つ敷地からしか見ることのできないものであり、私たちがこの場所を敷地に選んだ理由でもある。ヴィス島に新しい文化の風を呼び込むコミュニティハウスとヴィス島の文化が融合する無二の空間を丸窓が演出してくれているのである。

三つ目は、この建物が子供たちによって使用されることを想定しているということである。このコミュニティハウスが建つ敷地の近くには幼稚園や中学校、高校など教育施設があり、休み時間になると敷地の周辺で遊ぶ子供たちの姿が多く見られる。この建物は子供が気軽に入れるつくりになっているため、将来のまちづくり、文化交流の要となるべき子供たちによって多く活用されることが期待できる。

最後には、この建物の建設構法が、現在住む場所もなく、行き先もままならない中東・アフリカからの移民や難民のための居所として活用され、それらの人々に短い期間でも屋根のある安全な場所で過ごしてもらいたい、という思いがある。

必要なプレカットデータをカッティング機械のある工場に送ることで、そこでカットされたピースが現場に運ばれ、現地で家を必要とする人たちが自分たちで自身の家を組み立てて住むことができるようになるかもしれない。

異なる世界に生きる人たちが、窓を通してその先に見える風景に思いを馳せ、希望をもって明日に向かうことができるようにこの建築が機能してくれることを望んで止まない。