川島奈々未 (東京大学大学院)

Nanami Kawashima (The University of Tokyo)

1991年ロンドン生まれ。2014年東京大学工学部建築学科卒業。卒業設計にて辰野賞を受賞。2014年4月- 東京大学大学院建築学専攻隈研究室修士課程在籍。2015年5月 - Caruso St John Architects (ロンドン) にてインターンとして勤務。

March 8, 2016

第2回 奥行きがもたらす生活の深み

朝の空気が冷たくパリッとするようになり、サマータイムの終了がいよいよ秋の終わりを告げ、長い冬の訪れを知らせてくれた。ヨーロッパ各国で実施されているこのサマータイムという制度は、3月末から7ヶ月の間、標準時間を1時間進めるというもので、その起源は20世紀初めの英国人建築業者ウィリアム・ウィレットの提言に遡る。彼はある夏の朝、とっくに太陽が昇っているにもかかわらず、街の人々が家の鎧戸を閉めたまま眠っている状況を見て、せっかくの日光が浪費されているように感じたという。やがてウィレットは“The Waste of Daylight”と題したパンフレットを刊行し、標準時間の調整によって日照時間を有効活用することの意義を説いた。実際に制度として導入されたのはその十数年後の1916年のことであった。
第一次世界大戦が始まると資源の節約が英国政府の切実な関心事となり、石炭の消費量の抑制を目的として日光の活用が採用されたのだ。

  • ハイドパークもすっかり秋模様。夏には日光浴を楽しむ人々で賑わっている。
September 17, 2015

第1回 煉瓦色のシークエンスを辿って

意外に感じるかもしれないが、ロンドンという都市の良いところは“乱雑”さにあると思う。実はロンドンでは、街のいたるところで異なる時代背景をもつ要素が、互いの領域をオーバーラップさせながら共存している。例えば、個々の建物のスケールで見てみれば、その多くが度重なる改築や増築によって更新されていて、新旧の境界を見極めるのは難しいことがわかる。また、街区の構成を取ってみても、歴史的に都市全体のプランニングが実施されることがなかったこの街には、グリッドや幾何学的な軸といった基本的ロジックは存在せず、それぞれの場所をつなぎ合わせるように有機的な街路のネットワークが広がっている。

人間のスケールを超えた高層ビルが建つシティ・オブ・ロンドンの金融街を歩いていても、街路自体は18世紀ジョージアン時代の曲がりくねった構成のままで、不思議なミスマッチ感を覚える。この街のイメージは、曖昧な境界を持つ個々の要素の無造作な連続体、つまりシークエンスとして形成されているように感じる。ロンドンが「村の集合体」としばしば言われるのにも納得がいく。

  • 新旧が共存するロンドンの街並み