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November 15, 2017

第3回 往来のための開口部

開口部の用途のひとつに、物質的なモノの行き来がある。基本的に内部空間と外部空間との境界面に開口部は設けられるものである。そこを通じて人やモノの往来が可能となる。遮断されていた空間が開け放たれ、内部と外部が連続すると、様々な変化が生じる。例えば外部からの刺激として、新鮮な空気が流れ込んだり、鳥のさえずりや波の音など外界の音が耳に入ってきたり、花の芳しい香りがしたり、様々な刺激が加わるであろう。その逆に、内部のアクティビティを外に持ち出し、その境界をなくすこともある。例えば、屋外で食事をしたり、読書したり、音を奏でたり、などの行為が外部と連続するケースである。

今回紹介する開口部は、人の往来を目的に設けられたもので、開放することで内部と外部がシームレスに連続するものを取りあげる。ガラスという透過性のある素材が果たす役割が大きく、視覚的には境界をなくし、外部と連続させている。

1.住宅

庭に面して、ガラスの大きな掃き出し窓が連なっているのが特徴のこの住宅は、デンマークの建築家アルネ・ヤコブセンが設計した《コックフェルトの別荘》(1957年)である。引戸式もしくは蝶番式のガラス窓の開閉によって、内部と外部を行き来できる。居室は一段高いところに設けられ、外部のウッドデッキ(縁側)に出て遠くを見やると、海を望むことができる。ウッドデッキへは各居室から行き来でき、そこから階段を使って庭に下りることができる。芝生が敷き詰められた緑の庭では、ガーデニングパーティやバーベキューが行われたのではないだろうか。

デンマークでは1950年代後半にこれと類似の住宅が多く設計されている。《ハルドー・グンログソン自邸》(1958年)、《ポール・ケアホルム自邸》(1963年)などが知られているが、日本の伝統建築を参照したと言われている。常に時代を先取りするヤコブセンは、それよりも早く「引戸」や「縁側」の仕組みを住宅に取り入れ実現させている。

デンマークに限らずヨーロッパでは「引戸」という概念はなかった。襖で空間をフレキシブルに開閉する日本の住居が彼らにとっては新鮮で、画期的かつ機能的とみなされ、戦後のモダンハウスの潮流となった。日本の雑誌『The Japan Architect』が1956年6月に海外向けに英語で発売されたのをきっかけに、写真で目にする機会が増えたことがその背景にある。引戸を開け放つと、庭を鑑賞するための縁側が設けられ、内部と外部をつなぐ緩衝領域、いわば「中間領域」を形成している。

  • アルネ・ヤコブセン《コックフェルトの別荘》(1957年、デンマーク)

次の住宅もガラスの引戸の開閉によって、庭と一体化することができる住宅である。こちらはノルウェーの建築家スヴェレ・フェーンが設計した《シュライナー邸》(1963年)である。やはりウッドデッキ(縁側)を介して、庭とつながっており、室内に居ながら外部と連続した空間を楽しむことができ、四季折々の風景や自然の移り変わりを享受できる。

  • スヴェレ・フェーン《シュライナー邸》(1963年、ノルウェー)

次の住宅はノルウェーの建築家アルネ・コルスモが設計した瀟洒な住宅、《ステーネーセン邸》(1939年)である。朱色のグランドピアノが置かれたミュージックルームは、当初から外部と連続した設計で、ガラス戸を開放すれば、屋外サロンコンサートを開催することも出来る。裕福な投資家であったクライアントは、美術蒐集品の展示スペースを条件に、機能主義建築家としてノルウェーで頭角を表し始めていたアルネ・コルスモに設計を依頼した。この住宅は1974年にノルウェーの首相に寄贈され、2014年からはノルウェー国立博物館が管理運営を行っている。オリジナルの状態に復元し、一般公開している。

  • アルネ・コルスモ《ステーネーセン邸》(1939年、ノルウェー)

アルネ・コルスモが戦後に建てた《自邸》(1955年)は、「働く家」という概念の職住一体住宅である。庭に面して全面ガラス張りとなっているのが特徴で、アメリカ人建築家イームズ夫妻の自邸を彷彿とさせる。実際、コルスモ夫妻はイームズ夫妻と交流があり、強い影響を受けているのは間違いない。

2.美術館

《ルイジアナ現代美術館》の特徴のひとつは、どこからでも自由に外部と内部の行き来ができる点である。美術館は回遊式の導線となっており、ガラス窓から見える野外彫刻に誘われるかたちで、遊歩道へ踏み出す人も多い。展示室と展示室をつなぐ通路は、移動しながら芸術をふんだんに楽しむことができるよう、内部と外部のそこかしこに作品が置かれている。

  • ヴィルヘルム・ヴォラート&ヨーエン・ボウ《ルイジアナ現代美術館》(1958年、デンマーク)

3.公共建築、商業建築

ヤコブセンは戦後、中庭型の《ムンケゴー小学校》を設計し、画期的なプランで注目を集めたが、同じように図書館でも中庭型のプランを採用している。屋外で太陽の光を浴びながらの読書は最高に気持ちよいだろう。中庭には四季折々で楽しめる草花や樹木が植えられ、ベンチに腰掛けてランチを食べることもできる。このような空間は息抜きや気分転換に必要であり、図書館には最適な空間といえよう。

  • アルネ・ヤコブセン《ロドオア図書館》(1969年、デンマーク)

通称「ブラックダイアモンド」と呼ばれる《デンマーク国立図書館》は、スロープ状のエスカレーターが上下階をつなぎ、巨大な吹き抜け空間によって開放感を演出している。大ガラスの向こうには、運河が広がっている。エスカレーターを下っていると、そのまま水辺に滑り出していくような感覚になる。読書室で活字を追うのに疲れたら、大ガラスの向こう側に出てみるとよいだろう。屋外には椅子が並べられ、運河を行き来するボートを目で追いながら物思いに耽る人、友人との談話を楽しむ人、ひとり読書に没頭する人などで賑わっている。

  • シュミット・ハマー・ラッセン設計《デンマーク国立図書館「ブラックダイアモンド」》(1999年、デンマーク)

カフェやレストランでは、人は食事を取りながら、ゆったりとした時間を過ごす。眺めのよいレストランが人気なのは、世界共通である。これは「美しい眺めの海岸」という意味のベルビュービーチ沿いにあるカフェ&レストランである。レストラン内は設計者アルネ・ヤコブセンがデザインした家具、照明器具、食器などで統一されている。周囲には他にもヤコブセンが設計した集合住宅があり、建築巡礼地のひとつとなっている。青い空と青い海の水平線を眺めながら、のんびりお茶を飲むことをお勧めする。

  • アルネ・ヤコブセン《ベルビュー・レストラン》(1937年、デンマーク)

本連載では3回に分けて、北欧の開口部を類型化した。「光のための開口部」は、光を室内に取り入れるために設けられたものである。「風景のための開口部」は、内部に居ながら外部の風景を目で楽しむための「羽目殺し」の窓を選んだ。「往来のための開口部」は、人の往来を目的とし、かつ内部と外部の境界線をなくし、連続させることを意図したものを取り上げた。もちろん開口部にはこれとは異なる分類法があり、もっと多様である。しかしこのレポートではこの3つの分類に特化し、北欧という地理的に気候が厳しい地域で果たす開口部の役割をみてきた。そしていかに開口部のデザインが重要で、空間の質をも変え、人々の生活をより豊かにすることができるか、少しは理解できたのではないだろうか。開口部から紐解く研究は奥が深く、さらに続けていきたいと考えている。

 

 

和田菜穂子/Nahoko Wada
新潟県生まれ。博士(学術)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。神奈川県立近代美術館、コペンハーゲン大学、東北芸術工科大学、東京藝術大学、慶應義塾大学等に勤務。日本および北欧の近代住宅史が専門。著書『近代ニッポンの水まわり』『北欧モダンハウス』『アルネ・ヤコブセン』(以上、学芸出版社)、『北欧建築紀行』(山川出版社)。2016年10月に一般社団法人東京建築アクセスポイント設立。