July 8, 2013

中野正貴『東京窓景 TOKYO WINDOWS』

東京の風景を“窓”越しに捉えたこの写真集は、さまざまな東京の“窓辺”へと私たちを誘い、その部屋の住人だけが目にしている東京の日常風景を見せてくれます。いわば、住人それぞれが持っている「個人的な東京」を“窓辺”ごと、切り取って集めた1冊です。

“窓”の向こうにあるのは、私たちがパソコンやTV画面を通して何度となく目にしている、あるいは通行人として実際に紛れたことのある、よく見慣れた東京の姿です。しかし、“窓”の内外を合わせて目にする東京の姿には多くの発見があり、とても新鮮に映ります。例えば、私たちが意識している風景と、見えていても見過ごしている風景との対比。目まぐるしく変化し続ける都市の時間軸と、そこに暮らす個人の時間軸との対比。“窓辺”にあふれる住人それぞれの個性の対比もあります。

ところで、この写真集に収められた東京の風景が、どこかよそよそしく、私たちに不安な感情をも呼び起こすのはなぜでしょう。とある部屋の住人になり代わって“窓”を眺める私たちの目には、東京に暮らす無数の人々の存在が、都市のエネルギーとなって感じられます。その存在は、まぎれもなく私たちの生活の一部となっているのですが、“窓”を隔てた別世界の住人模様として眺めることも可能なので、フィクションのように感じます。実際に私たちは、“窓”の内外を行き来しながら、確かな自分とおぼろげな自分とを演じ分けているのかもしれません。

作者は巻末でこう述べています。「人々はパソコンや携帯電話の画面の中の仮想現実の風景に、より親近感を覚え始めた。内側へ内側へと侵食する腐食物は、人々の現実味を鈍麻させる。虚構から虚構を創り出すその根拠のない連鎖反応は、人々をニヒリズムへと導く。いつの頃からか我々東京人は、混沌とした都市全体を正視することを拒否した。」

“窓”は本来、私たちと現実の都市とをつなぐものでもあります。しかし、この写真集には“窓”に隔てられた「2つの東京」の姿があります。現実味ある内側の東京と、仮想現実化して見えだした外側の東京。“窓”越しに2つを重ね合わせ、「1つになった東京」の姿を想像することが、都市に生きる私たちにとって必要なのでしょう。さあ、あなたの住む“窓辺”は、あなたの街とどのようにつながって見えますか?

 

『東京窓景 TOKYO WINDOWS』
著者|中野正貴
出版|河出書房新社
出版年|2004年
定価|2,900円+税