窓研究所

Window Research Institute

2013年より、研究者・建築家とともに窓の多角的な研究を行っています。

July 15, 2014

堀江敏幸『戸惑う窓』

窓の前に立ったとき、ふと浮かんだ感情から内なる宇宙にとびたつエッセイ集。

筆者は初めの章でこう述べます。『窓とはいったいなんだろうか? (中略) 窓について考えるたびに私は戸惑う。それどころか、とまどう、という音のなかに「まど」の響きを聞いてしまうのだ。』一瞬、こんなにも窓について考えた人がいるのかと驚きますが、窓の前に立ったときに感じる様々な気持ちを振り返れば、私たちも筆者の戸惑いに共感できるのではないでしょうか。

筆者はこの戸惑いに対して、『主導権は窓に渡しておけばいいのである。』と言い、窓を意識した文学作品、絵画、写真、映画、詩歌、科学の知識まで、次々と思い浮かべながら、宇宙空間とも言える無限の思考をただよっていきます。万葉集、サン=テグジュペリとレオン・ウォルト、ヒッチコックの映画「裏窓」、マチスの絵画、リルケの詩、毛細血管の「有窓性」・・・筆者の幅広い知識を愉しみながら、読者は窓とそこに生じる「何か」を追って行くことができます。

窓とはどんな存在なのか、窓から与えられる不安、期待、さまざまな感情・・・。著者の文章・思考をたどって行くうちに、窓が明るく、みずみずしく見えたり、不気味に見えたり、まるで白昼夢を見ているような気持ちになります。

装丁家・間村俊一による美しい装丁、読む者を夢想へいざなうページの余白も素晴らしく、何度も窓の前に立ちながら、ゆっくりと読みたい一冊です。

 

『戸惑う窓』
著者|堀江敏幸
出版|中央公論新社
出版年|2014年
定価|2,200円+税

November 18, 2013

ベルンハルト M. シュミッド 『世界の窓』

写真家である著者が、世界中を訪れ180の窓を写真に収録した「世界の窓」。この一冊でヨーロッパ、アジア、アメリカなどあらゆる国の窓を巡る世界旅行が楽しめます。

収録してある窓の写真は、すべて外観、正面から撮影されており、人の姿はありません。180もの「窓の立面写真」は、まるで世界の窓を採集したカタログのようです。鮮やかな赤や青色の窓枠、通風とプライバシーを両立する木製の格子、細かい桟にはめ込まれたガラス等、個性豊かな窓がページをめくる度にあらわれ、各地固有の窓の素材や形式が、明快に比較できるようになっています。

同時に、著者が切り取った窓の写真には様々なしつらえがあらわれています。室内にかけられたレースのカーテン、窓辺を彩る花々やまわりを囲う蔦、子供がいるとわかる小さな洗濯物等が、窓を生活の一部として大切に扱う住人の姿を想像させてくれます。著者が切り取った窓辺の写真からは、街の顔としての側面と、家族の大切な所要物としての側面、2つの窓の性格が示されています。

本の最後には各写真の撮影地がすべて掲載されています。「世界の窓」を片手に、お気に入りの窓がある街を訪ねてみると、新たな発見があるかもしれません。

 

『世界の窓』
著者|ベルンハルトM.シュミッド
出版|ピエ・ブックス
出版年|2006年
定価|1,800円+税

September 16, 2013

qp、 柴崎友香、 中山英之 『窓の観察』

アーティスト、小説家、建築家、三者三様の窓の創作がおさめられた本書は、長島明夫が編集発行人をつとめる建築雑誌『建築と日常』の別冊として2012年に発行されました。

アーティストのqpは、写真という手法で、どこにでもあるような住宅の「窓」を室外から観察し、 日常を坦々と羅列することで作品を作り上げています。

小説家の柴崎友香は、室内や室外からみた日常の「窓」を小説空間の中で主人公に視覚的に記述させていきます。

また、建築家の中山英之は、世界を内と外に明確に隔ててきた建築に新しい「窓」を挿入することで、その二つをイコールにする試みを自作からポエティックに例示しています。

室外からみた窓、室内外からみた窓、内外のない窓といったそれぞれの視点の土台となるフォーマットには私たちの「日常」が選ばれています。

2011年3月11日以降、当たり前にある「日常」というものが当たり前ではなかったことに気付き、この世界に対する畏怖や疑念が強まった人は私も含め非常に多いと思います。

今和次郎の考現学や、赤瀬川原平の超芸術トマソンの文脈を引き継ぎながらも、想定できない今ここにある日常とどのように対峙するのかという命題に対して、2012年に出版された本書は、当たり前にあった日常を「窓」を通して観察することで日常をとりもどす、言い換えれば

 

『窓の観察』 (『建築と日常』別冊)
著者|qp、柴崎友香、中山英之
編集発行者|長島明夫
出版年|2012年
定価|900円+税

July 8, 2013

中野正貴『東京窓景 TOKYO WINDOWS』

東京の風景を“窓”越しに捉えたこの写真集は、さまざまな東京の“窓辺”へと私たちを誘い、その部屋の住人だけが目にしている東京の日常風景を見せてくれます。いわば、住人それぞれが持っている「個人的な東京」を“窓辺”ごと、切り取って集めた1冊です。

“窓”の向こうにあるのは、私たちがパソコンやTV画面を通して何度となく目にしている、あるいは通行人として実際に紛れたことのある、よく見慣れた東京の姿です。しかし、“窓”の内外を合わせて目にする東京の姿には多くの発見があり、とても新鮮に映ります。例えば、私たちが意識している風景と、見えていても見過ごしている風景との対比。目まぐるしく変化し続ける都市の時間軸と、そこに暮らす個人の時間軸との対比。“窓辺”にあふれる住人それぞれの個性の対比もあります。

ところで、この写真集に収められた東京の風景が、どこかよそよそしく、私たちに不安な感情をも呼び起こすのはなぜでしょう。とある部屋の住人になり代わって“窓”を眺める私たちの目には、東京に暮らす無数の人々の存在が、都市のエネルギーとなって感じられます。その存在は、まぎれもなく私たちの生活の一部となっているのですが、“窓”を隔てた別世界の住人模様として眺めることも可能なので、フィクションのように感じます。実際に私たちは、“窓”の内外を行き来しながら、確かな自分とおぼろげな自分とを演じ分けているのかもしれません。

作者は巻末でこう述べています。「人々はパソコンや携帯電話の画面の中の仮想現実の風景に、より親近感を覚え始めた。内側へ内側へと侵食する腐食物は、人々の現実味を鈍麻させる。虚構から虚構を創り出すその根拠のない連鎖反応は、人々をニヒリズムへと導く。いつの頃からか我々東京人は、混沌とした都市全体を正視することを拒否した。」

“窓”は本来、私たちと現実の都市とをつなぐものでもあります。しかし、この写真集には“窓”に隔てられた「2つの東京」の姿があります。現実味ある内側の東京と、仮想現実化して見えだした外側の東京。“窓”越しに2つを重ね合わせ、「1つになった東京」の姿を想像することが、都市に生きる私たちにとって必要なのでしょう。さあ、あなたの住む“窓辺”は、あなたの街とどのようにつながって見えますか?

 

『東京窓景 TOKYO WINDOWS』
著者|中野正貴
出版|河出書房新社
出版年|2004年
定価|2,900円+税

May 24, 2013

浜本隆志『「窓」の思想史 日本とヨーロッパの建築表象論』

“窓”を切り口に建築から風景・風俗・政治支配にまで及ぶ思想史を探求する一冊。産業史、技術史の具体的な内容をふんだんに盛り込みながら、その根底にある思想をわかりやすく解説してくれます。

主題は日本とヨーロッパの思想の根底にある水平志向と垂直志向。近代建築の高層化、“窓の増殖”化は、かの有名な『バベルの塔』と同じ垂直志向ではないか―というスタートから、“窓”の思想史の旅に惹きこまれます。その相対する志向は、窓の形状、開閉、操作部品、さらにはノコギリや、お寺や教会の鐘まで脈々と流れているのです。読み進めれば、きっと自分のバックグラウンドの水平または垂直志向に思い当たることでしょう。 後半では、多文化が混在する現代で、文化の共生への水平志向の可能性が示されます。進歩主義により“垂直”に“積み上げて”きた文明が果たして“未開の生活”より優れているのか。ここで紹介される文化人類学者レヴィ=ストロースの言葉「文化そのものには優劣はない」 (なんとも刺激的なおことば!) 。垂直志向から水平志向へ―という提言には、希望があふれています。

読み終わった後には、私たちのそばには確かに“窓”があり、なにか大切な思想を表しているのではないかと思い至らせてくれる一冊です。これを読めば、何気なくみた“窓”からいつでも壮大な思想へのトリップが楽しめるようになるでしょう。

 

『「窓」の思想史 日本とヨーロッパの建築表象論』
著者|浜本隆志
出版|筑摩書房
出版年|2011年
定価|1,600円+税